シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

ググって分かる日銀の体質

 日本では物価が下がり続けています。 物価指標をGDPデフレータで見た場合、前回消費税増税があった1997年以降15年連続のデフレです。*1 この持続的デフレの影響は日本経済全体を覆っています。 象徴的なのは、名目GDPへの影響です。下の図表1のように、実質GDPではなんとか成長を持続している日本ですが、名目GDPではデフレによる停滞ないし減少が続いており、名目GDPと連動性が高い民間給与や税収にも大きな悪影響が出ています。
(ニュースの社会科学的な裏側 からいらっしゃった方へ。名目GDPとサラリーマン給与の連動性については最後に追記しました)。
このように、デフレ状態では実質GDP以上に名目GDPの動向が重要だと考えられます。

図表1 日本の実質GDPと名目GDPの動向
実質GDPはデフレ環境下でもなんとか伸びているが、
名目GDPはデフレで足踏みないし減少を続けている。
出典 World Economic Outlook Database April 2012

 物価の動向に責任のある日銀もGDP(国内総生産)の動向は気になるところと思われますので、日本のニュースで「日銀×実質国内総生産」と「日銀×名目国内総生産」をそれぞれググって、ヒット数を調べてみました。すると。 
「日銀×実質国内総生産」が1,830件ヒットするのに対し、「日銀×名目国内総生産」は37件。 「実質」に対し「名目」はわずか2%しかヒットしませんでした(図表2)。

図表2 ニュースにおける実質国内総生産と名目国内総生産の検索ヒット数
グーグルで日本のニュースについて「日銀」と「実質国内総生産
または「名目国内総生産」をかけて検索したヒット数。

 物価指標自身についても同様に調べてみました。
 日銀が物価指標として使っているCPI(消費者物価指数)は1%程度の上方バイアスがあり、実際よりもインフレ気味に数値が高くなることが知られています。
FRBは重要視する物価指標は上方バイアスがないPCE(個人消費支出)デフレータとされています。*2  日本ではPCEデフレータは公的に公表されていませんが、日本の物価全体を見る目的ではGDPデフレータが公表されています。 GDPデフレータもPCEデフレータ同様、上方バイアスがなく正しい物価指標と考えられます。
先ほどと同様に、日本のニュースの中で、「日銀×各物価指標」をググったヒット数が図表3です。
上方バイアスがある消費者物価指数(CPI)は1,000件以上ヒットしますが、食品などの影響を除いたコアCPIは300件、上方バイアスのない、GDPデフレータとPCEデフレータはそれぞれわずか2件ヒットするのみでした。

図表3 ニュースにおける各物価指標のヒット数
グーグルで日本のニュースについて、「日銀」と各物価指標を
かけて検索したヒット数。

 こうしてみてくると、日銀という組織がデフレ日本に正面から向き合っているというよりも、デフレの実態から国民の目をそらそうとしているようにもみえてきます。

図表4は日銀の鎮目雅人氏が国債の日銀引受実施に関する歴史的考察ついてまとめた論文*3の中に出てくる物価推移のグラフです。

図表4 日本の超長期物価推移
幕末から1999年までのGNPデフレータの動向。
出典 日銀・鎮目雅人「財政規律と中央銀行のバランスシート」 

鎮目氏は物価動向の超長期的推移を4つのステージに分けて評価しました(図表5)。 この中で、1932年から1951年までの20年間を「管理通貨制度移行期」とし、物価高騰が著しい時期として指摘しています。
ただ、この「管理通貨制度移行期」には2つの性質の異なる財政期が含まれています。ひとつは世界大恐慌に伴う著しいデフレからめざましく回復した「高橋財政期」と、軍部主導の軍拡に強力した馬場硏一蔵相による「馬場財政」以降です。 筆者がこの2つの時期を分けてみました。(図表6)。


図表5 鎮目氏による物価の4ステージ(上)
図表6筆者による、「管理通貨制度移行期」の分割(下)

日銀・鎮目氏は物価の高騰が激しかったのは「管理通貨制度移行期」としている(図表5)。
しかし、それを前後2つに分けると高橋財政期では、超長期全体平均と比較しても
物価はむしろ安定しており、馬場財政以降に物価高騰が始まったことが分かる(図表6)。

高橋財政期の物価上昇率は年率約5%です。 これに対し、軍部の言うなりに紙幣を発行して軍拡に手を貸した馬場財政期以降戦後の混乱期までの物価上昇率は年平均40%に達しています。 デフレ退治に大きな貢献をした高橋財政期を鎮目氏がなぜ物価高騰期として切って捨てようとするのかはわかりません。
しかし、先に示した日銀発情報のバイアスと併せて考えると、日銀の体質というものが垣間見えるように思うのは筆者だけでしょうか。

【追記】GDPとサラリーマン給与
GDP国内総生産と、その成果の一部の配分を受けているサラリーマンの給与は連動性があります。ではサラリーマン給与は日銀がよく採り上げる実質GDPと名目GDPのどちらに連動性が高いでしょうか?
図表7がその答えです。

図表7 GDPとサラリーマン給与(1997年=100%として指数化)
1997年から2010年の間では、サラリーマン給与と名目GDPは相関係数62%ですが、実質GDPとは−69%。実質GDPはサラリーマン給与とは関係ないというか、逆相関とさえいえる指標です。この民間給与と連動性がない実質GDPに盛んに言及し、連動性のある名目GDPには余り言及しない日銀とマスコミって…。*4

*1:例えば「外食産業の苦境と政府・日銀の過ち」参照

*2:CPIは構成要素のウエイトのかけ方が一定であるため、時間の経過に伴い、需要は相対的に価格が高いものから低いものに移行していくにもかかわらずウエイトを一定にしていることから、CPIだと上方バイアスもかかってしまう傾向がある。それに対し、PCEは消費実態に合わせてウエイトを変化させているためこうした問題は起こらない。

*3:財政規律と中央銀行のバランスシート IMES DISCUSSION PAPER SERIES 鎮目雅人2001年5月

*4:2003年以降になると、サラリーマン給与が名目GDP以上に減ったのは、小泉構造改革により非正規雇用化を政府が促進したからではないかと筆者は考えています。