シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

一兆円金貨は荒唐無稽か

 政府通貨については、デフレ対策としての有効性や副作用については誰しも一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

 元民主党中村哲治議員*1も、有権者らから政府貨幣の有効性について指摘や質問を受けているようで、自身のブログ *2 にコメントを書かれています。

■政府通貨論について
通貨政策について「日銀券に代えて政府通貨を発行すれば国債を発行しなくても通貨の流通量が増える」という御指摘をいただきます。この議論については一見良さそうに思えますが、私としては全く理解できない要素があるので、一応まとめておこうと思います。

まず、「政府に紙幣の発行権はないけれども貨幣の発行権はあるので、一兆円金貨などを作って40枚発行すればいい」とおっしゃるような方がいらっしゃいます。
しかし、この立場の方に対しては「それならば、一兆円金貨はそのままでは流通できないため、どのような通貨に両替するのでしょうか」という疑問が生まれます。
つまり、日銀券と政府通貨の両替を如何にするのかという問題が生じます。特に、銀行が政府通貨を扱うのか、扱う場合にはそのファイナンスはどのようになっているのかということは非常に重要な課題となります。
・・・【課題1】*3

現在の貨幣の発行と政府の債務の関係がどのようになっているのかについては、また調べてこのブログで書こうと思います。

政府通貨が完全に日銀券と両替可能だということになれば、結局、日銀が一兆円金貨を購入して一兆円分の日銀券を市場に拠出することになります。それは、国が一兆円の国債を発行して日銀がそれを買い取ることと同じです。
・・・【課題2】

むしろ、(おそらく一兆円金貨には利息が付かないでしょうから)政府通貨の価値の裏付けがない以上、日銀のバランスシート自体が、客観的評価ができない政府通貨という不良資産に汚染されるという見方も可能となります。
そうすると、結局、日銀券の信用にかかわるようになります。
・・・【課題3】

このように考えると、何もわざわざ政府通貨を発行して公共事業を行い通貨の流通量を増やさなくても、政府が国債を発行して円貨を調達し、内需拡大のために公共的な用途に使えば済むという話になります。・・・【課題4】
(以下略)

中村議員はいくつか政府貨幣の課題をあげています。
順番に考えていきますがその前に物事は本質を見失わない範囲で単純化して考えることが大事です。

日銀券は日銀が発行しています。 これに対し貨幣 *4 は政府により発行されています。 現在主に通用している貨幣は最高額面が500円ですが、額面が千円・5千円・1万円の記念貨幣の発行に立法措置を要さず、閣議決定によって発行することが可能です*5
そこで1兆円金貨をイメージしやすいように1万円金貨1億枚に置き換えて考えてみましょう。

【課題1】
日銀券と政府通貨の両替を如何にするのか。
銀行が政府通貨を扱うのか、扱う場合にはそのファイナンスはどのようになっているのか。

当たり前ですが、1万円金貨は日銀券と両替は可能です。 それが一兆円玉になろうが同じことです。
銀行が政府通貨を扱うかどうかも任意でしょう。 ただ、見慣れない政府通貨が市場に流通する困難を避けたければ、両替をもっぱら日銀でするならば、市場に流通するのは日銀券のみです。

【課題2】
政府通貨が完全に日銀券と両替可能だということになれば、結局、日銀が一兆円金貨を購入して一兆円分の日銀券を市場に拠出することになります。それは、国が一兆円の国債を発行して日銀がそれを買い取ることと同じです。

1万円金貨を日銀が両替することと、1万円の国債を日銀が直接引受けすることはほぼ同じです。
これは現日銀法では基本的には禁止となっています。
 現在一般的な国債発行方法、つまり1万円の国債を市場で消化し、その後どこかの時点で日銀が市場から買い入れたとすれば、その間金利が積み上がっています。 金利のつかない貨幣と金利のつく国債がほぼ等価となるのは例外的な場合ですから、貨幣と国債がほぼ同じ、という論法は粗過ぎます。

【課題3】
(おそらく一兆円金貨には利息が付かないでしょうから)政府通貨の価値の裏付けがない以上、日銀のバランスシート自体が、客観的評価ができない政府通貨という不良資産に汚染されるという見方も可能となります。 そうすると、結局、日銀券の信用にかかわるようになります。

これは全くわけがわかりません。 1万円金貨なり、500円玉に価値の裏付けがない、というのはどこからくる話か見当もつきません。1兆円金貨だろうが、1万円金貨だろうが、500円玉だろうが、はたまた1万円日銀券だろうが、1万円国債だろうが、金本位制度が廃止されている現在、政府の信用、もっといえばいずれも政府の徴税権を裏付けにしています。 
 これらの中で、日銀券については日銀は「国債などの資産を裏付けにしている」という立場ですが、その国債が政府の徴税権を裏付けにしているので、日銀券には価値があって、1万円金貨や500円玉には価値がない、という考え方は全く理解不能です。 
 以前、日本と同じく不換紙幣制度を採る米国で、連邦準備銀行に10ドル札を送りつけ、「これを本来の価値のあるものと交換して欲しい」、と書いて送ったところ、5ドル札が2枚送られてきたとか。 更に送られてきた5ドル札を再度連邦準備銀行に送ったところ、送った5ドル札が返送されてきたという話です。 政府の信用を背景に中央銀行券を発行する、とはそういうことです。

 また「利息がつかないものには価値がない」、などというのなら、無利息の奨学金は無価値でしょうから返済不要でしょう。全く何を言っているのか分からないほど間違っています。

【課題4】
このように考えると、何もわざわざ政府通貨を発行して公共事業を行い通貨の流通量を増やさなくても、政府が国債を発行して円貨を調達し、内需拡大のために公共的な用途に使えば済むという話になります。

この短い文章で2つ間違っています。 
まず、政府が国債を発行すれば、金利がつくこと。金利さえなければ、償還期限には同額の国債を再発行して返済するだけですから無限に返済可能です。現実の国債には金利が積み上がっており、これこそ国債発行問題の本質です。
それから、国債を市場で消化するのであれば、市場(金融機関)から流動性を提供してもらっていることになります。 金融機関はその原資を出した預金者などに最終的には返済する必要があり、国債を市場発行して公共事業を行う、という状態を中期的に継続するとすれば、国民のマネーを使って、国債金利を積み上げている状態であり、やらないほうがマシな政策です。
デフレ日本で公共事業をやるならば、あくまでも原資の出し手は国民ではなく、日銀でなければなりません。 そうすると、その手段は政府貨幣を発行するか、国債を日銀に直接引き受けさせるか、国債を市場発行してそれと同額を市場から日銀が買いオペで買い上げるか位しか方法はないと思います。

ただ。

たびたび聞かれることですので、簡単にまとめておきました。
また、精度を上げた記述をするつもりです。

とも言われていますし、氏は京大法学部を出た秀才のようです。
そもそも国会議員でシニョリッジ政策をまともに取り上げているだけで、大変貴重な存在とも言えます。1兆円玉を500円玉に置き換えて、自説の誤りに気がつかれることを望みます。


   政府貨幣
現在主に流通しているのは500円以下の貨幣だが、
日本政府は1万円までならば記念貨幣として
立法措置を要さずに発行可能。
1兆円金貨でも国会決議によれば発行可能。

*1:中村議員は野田佳彦首相が推進する消費税増税に反対し、7月2日に民主党を離党。新会派「国民の生活が第一」に加わった

*2:中村てつじ公式ブログ「政府貨幣」

*3:課題番号はシェイブテイルが付記

*4:以前補助貨幣と呼ばれていたものは金を正貨とする金本位制度が廃止された後は補助という意味を失ったため、昭和63年以降単に貨幣と呼ばれるようになりました。

*5:通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第5条