シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

列島強靭化計画論と単純公共事業論の差

京都大学公共政策が専門の藤井聡の列島強靱化計画論が現在注目を浴びています。今更また公共事業か、という批判的な捉えもあるようですが、藤井教授の列島強靭化計画論と単純な公共投資拡大論は随分ちがっています。 
 公式な主張・見解はこちらにありますが、藤井教授の主張を分かりやすく紹介したビデオがありました。 そのビデオから列島強靭化計画論の、要点をまとめてみました。

1.成長論のふたつのパターン(右、図1)

 パターンA 日本は貿易立国、少子高齢化内需の拡大は望めない。
    だから日本が経済成長するには外に打って出るしかない。
      公共投資の効果は既に小さく、財政は破綻寸前

 パターンB  デフレの要因は需要不足であり、これを埋めるためには日銀による金融緩和と政府による財政出動のワンセットの取り組みが不可欠。 日本国債は国内で消化されており新たな国債発行に大きな支障はない。


◯過去1年間の851本の報道で、パターンAとパターンBで全体の9割を占める。 
 そのうち、大手新聞報道の88%がパターンA、パターンBはわずか、1.7%しかない。 この報道環境では国民はパターンAを支持しがち。京都大学では真実は少数派に宿る、というのが定説。

2.パターンA成長論の誤った認識
●日本は少子高齢化で成長できない論
 ドイツやロシアは少子高齢化だが、経済成長している。 人口が年率1,2%で過激に減っても、1人あたり名目成長率が3,4%伸びれば成長できる。
普段餃子を食べている人が、ちょっとイイもん食べるようになればそれで名目成長はする。 *1

●日本は外需主導である論
 日本が経済成長するには外に打って出るしかない。 こればかり言われているが、事実誤認。 実際は日本の経済は9割弱が内需。 しかもリーマン・ショックや欧州危機の2008年以降は外需が伸びていない。 外需が二倍に伸びても、名目GDPは1割ほどしか伸びないが、内需が二倍増えれば、名目GDPはほぼ倍増する。

●日本経済の破綻はそこまで来ている論
日本国債は円建て。ギリシャはユーロを刷れないが日本は円を刷れる。 従ってギリシャに似ているのは日本ではなくむしろ夕張の破綻である。
 日銀は国債が投げ売りされた場合には、日銀は買い支えることができる。 国債を買い支えるとハイパーインフレを起こすなどと言われるが、国債はわずか1,000兆円しかない。 市場関係者が想定するような200〜300兆円の投げ売りなら、普通に日銀が買い支えが可能。 現在の日本で日銀が国債を買い支えたからといってハイパーインフレを招来するとは全く考えられない。

公共投資はムダ 景気対策としての効果薄論
 巨大地震のリスクが報道されており、またインフラの老朽化が問題化しているのに、危機感がない主張。
インフレの際にはクラウディング・アウトが起こるがデフレでは起こらないことが定説。
スティグリッツクルーグマンも過去のマネタリスト的主張を修正して、財政出動は必要としている。

規制緩和で経済成長を!論
 供給過剰でデフレになっているのに最も深刻な事実誤認。 
 典型的な例として、タクシー運転手は規制緩和で年収が激減している。沖縄ではタクシー運転手の年収が90万円にまで減った。
 デフレによる所得減退メカニズム(デフレスパイラル)が生じている。デフレギャップを埋めなければデフレは終わらない。

3.デフレを悪化させるには
 規制緩和公共投資の削減・消費税の増税
 これら全てを90年代後半からこの国はやり倒している。
世界的に公共投資は増やす方向なのに、日本だけは公共事業を大幅削減。
デフレ放置による経済損失は1000兆円から4000兆円。 デフレで日本の経済力の凋落、失業・国民所得の減少が生じている。

ただし、構造改革が常に☓、公共事業が常に◯ではない。
インフレには冷ます政策として増税構造改革規制緩和 が必要。
デフレでは減税、公共投資保護貿易などが必要。


4.レジームチェンジ
日本全体の思い違いによるデフレ不況
貿易・改革成長論「A」から、財政出動・金融緩和成長論「B」へ

さて、この藤井教授の主張、列島強靭化計画論でのスキームで示せば、マネーの動きは図2のようになります。
図で、赤い矢印がマネーの流れを示します。 このスキームで、政府はマネーの導管と捉え、経済主体としては「民間(企業・家計)」(民間非金融部門)、「金融機関」(民間金融部門)そして中央銀行「日銀」だけを考えます。

図2 藤井教授の列島強靱化計画論でのマネーの動き
日銀による市場からの国債買い入れで、市場にマネーを供給し
同規模の財政出動として公共事業を行うというもの。
間接的に日銀が財源となっていることになる。

藤井教授の列島強靭化計画論がかつての公共事業による景気拡大論と大きくことなることは、まず目的が単に景気回復を目指すのではなく、デフレ脱却を目的としており、また財源として単にいわゆる建設国債を想定するのではなく、日銀とのアコードにより、発行した国債と同規模の国債を日銀が買い入れることとしていることです。
 現在の野田民主党はもとより、谷垣自民党も藤井教授の言うパターンA成長論を唱えているため、当面デフレ脱却につながる政策は採られないと思いますが、そう遠くない将来に、パターンBの「財政出動・金融緩和成長論」に賛同する政治家により、デフレ脱却を実行するというシナリオはありそうです。
 
図3,4 単純な公共投資(左)と単純な増税(右)
単純な公共投資は、建設国債を財源とし、一見民間非金融部門にマネーを提供しているように見える。
しかし、中期的には国債償還により民間非金融部門からマネーを回収することが国民に広く知られており、
マネーを提供された民間はそれを消費に回すよりも貯蓄に回す。
ましてや現在の三党合意のような単純な消費税増税では、デフレを悪化させる効果しかない。

列島強靭化計画論により、デフレ脱却には金融政策と財政政策のどちらが有効か、という議論がまたまた起きているようです。
シェイブテイルに言わせれば、バンザイするのに右手だけ挙げるのと左手だけ挙げるのはどちらが正しいか、と言っているに等しく、
どっちもやらなきゃバンザイとは言えない、以外に答えはないように思いますけれどね。
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*1:餃子をちょっとイイもん食べるようにする、とはデフレによる下級財シフトを転換する施策があればデフレは脱却できる、ということですね。