シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

デフレ脱却には財政マネタイズが最善

1.日銀は通貨供給量をコントロールできないのか
数日前、野口悠紀雄氏がネット上で「日銀には通貨供給量マネーサプライ)を動かす力はない」という意見を述べていました。*1
野口氏の主張は、日銀は日銀が発行する通貨量であるマネタリーベース(現金通貨+日銀当座預金)は当然コントロールできるものの、民間非金融部門に流通するマネーストックマネーサプライ)については「しかし、銀行がいくら貸そうとしても、企業に借入意欲がなければ、貸出は増えない。したがって、信用創造メカニズムは、上のとおりには働かないことになる」ので、日銀にはマネーサプライはコントロールできない、というものです。 
 日銀が直接的にマネーサプライをコントロールできないことは、日銀が政府と市中銀行に対する銀行と位置づけられ、民間非金融部門にマネーを提供できる立場ではないので当然です。
 ではなぜ企業に借入意欲がないか、といえばそれは日本が15年来のデフレであるため、名目金利は低くとも実質金利は高く、また個別の投資案件を見た場合にもデフレが継続すると予想(期待)される場合には、マイルドインフレが予想される場合よりも投資案件の現在価値は小さくなるため(簡単に言えば、不況が続く場合よりも好況の方がモノが多く売れたり、家賃は高く取れたりという当たり前の話です)、実体経済に投資をするより、日本国債を買ったりただの定期預金にしておくほうが有利ということですから、野口氏の主張は、「日銀にはデフレは脱却させる力はない」と言い換えることができます。

2.量的緩和策の有効性 
一方で、日銀などから市場にはマネーがジャブジャブにあるという話があります。 
たしかに、5月16日の国債買いオペでは予定額に応札が達しない札割れと言われる現象が発生しました。
この札割れについては、「札割れは近く日本国債が破綻する予兆」*2という主張から「札割れは短期国債に限ったために発生していて、長期国債なり、地方債にまで広げればまだまだ日銀は買える」という意見、そして「札割れは国債人気の証、国債人気はデフレの証。だから日銀が債権を買い入れても無意味」という意見などが出されているようです。
さてここまでの議論では、日銀が潤沢に民間金融部門ベースマネーを提供すれば(単純な「一定の貨幣乗数」によってではなくとも)それの応じてマネーサプライが増加するという仮説、つまり金融緩和の有効性に注目されていることになります(図1)。

図1 金融緩和スキーム
国の金融財政政策を最も単純化したスキームで表したもの。
政府自身は、使いきりの単年度予算のため、単なる「導管」とした。
赤矢印が金融緩和策、青矢印は民間金融部門の自発的貸し出し。
金融緩和によりデフレを脱却させるためには、
潤沢に銀行に資金があれば、それを金融機関が
民間非金融部門に自発的に貸し出す必要がある。

ただ、上述したように、デフレ下では実質金利が高い上に個別案件の投資魅力が低くく、また金融機関も投資を国債のような安全資産に限定しているために、「札割れ」という国債人気過熱現象が出てきているのでしょう。 お金には色がついていないこともあり、短期国債以外の、残存期間の長い国債や地方債などの他の債権を日銀が市場から買ったとしても、それが非金融部門への投融資に回るのかはかなり疑問があります。

3.財政マネタイズの有効性
 もうひとつ日銀がデフレを脱却させられる可能性があるルートとしては、政府を介するルートです。
日銀は政府にマネーを貸すことができますし、政府は財政政策を通じて民間非金融部門にマネーを提供できます。 これは政府が決定すれば自発的にできることであり、デフレの影響はありません。
日銀がインフレターゲットを宣言しただけで、それも実際にはわずか1%の、目処、という中途半端なものであっても、市場は株価上昇という形で応えました。日銀総裁らが実はインフレ目標には熱心ではないというアピールをする2ヶ月間ほどの間だけは。

もし日銀が2−4%程度のインフレ目標を掲げると同時に、例えば国債の直接引き受けを行うことで政府に潤沢にマネーを提供し、政府はその潤沢なマネーを消費性向が高く、貯蓄率が低い低所得者層を中心に国民に配る政策を採ったとすればデフレは一挙に解決することでしょう。
そして一旦デフレを脱却すれば、実質金利が下がるとともに、個別投資案件の現在価値が上昇しますので、頼まれずとも金融部門は積み上がったマネーを国内に積極投資するでしょう。

つまり日銀が金融部門を介すのではなく、政府を介してマネーを積極提供すれば、デフレ日本であっても日銀はマネーサプライをコントロールすることが可能でしょう。
 日銀はこうした財政政策に直接日銀のマネーを投入するスキームを蛇蝎のように嫌いますが、昨日のエントリーに書きましたように、市場の専門家も「先進国では中銀が国債管理政策に組み込まれ、マネタイゼーション(事実上の政府債務引き受け)を行う流れにある」との指摘をしています。*3
 政府から見れば資金の提供者は大きくは税金(主に民間非金融部門から)、借金(主に民間金融部門から)そして通貨発行益(中央銀行から)の三種しかないのですから、デフレ下での増税はナンセンス、国債積み上げも難しいとなれば、消去法で考えても、デフレ脱却の引き金となる資金の提供者は中央銀行しかないのではないでしょうか。


図2 財政マネタイズスキーム
国債直接引き受けや政府紙幣両替により、
政府は日銀からマネーの供給を受けることができる。
この資金で窮乏者救済なり老朽化したインフラの整備なり
を行なって一旦インフレ期待さえ生じれば民間での投資も
活発となり、税収も増え、一旦膨らんだ日銀の資産の圧縮も可能となる。


4.財政マネタイズの副作用は?
 デフレを脱却することによる経済活性化を唱える、いわゆるリフレ派の中にも、銀行を介する金融緩和あるいは信用緩和でデフレ脱却が可能とする考え方と、日銀による財政マネタイズが必要とする考え方があり、また信用緩和に加えて、(国債市中発行により?)財政政策を実施すべき、という考え方もあるようです。
しかし、財政マネタイズでデフレを脱却できないという意見は見聞きしません。
仮にインフレにならないとすれば、いわゆるバーナンキの背理法というやつで、インフレの兆しが現れるまでは、徴税の必要がなくなります。
 おそらく財政マネタイズをすることの唯一の問題は、日銀などがいうように、制御不能のインフレになるかどうかです。 シェイブテイルも、財政マネタイズはデフレという特殊な経済状況では一石二鳥三鳥の妙策であり、一時的にデフレ脱却のトリガー役を担うのであって、マイルドインフレに転じた後の恒常的マネタイズは有害だろうと思います。
ただ、現在は戦中のように旺盛な需要者も居らず、供給者は余りに余っています。
また、このブログで分析したように、我が日銀は物価を一定に抑制することにかけては世界一優秀な中央銀行です。 であれば、このモノ余り・人余り日本で、戦中戦後のような高インフレを予測する方はどんなメカニズムで、供給不足が発生するのか是非ご教示願いたいところです。

【追記】
日銀に対して財政マネタイズを積極的におこなえ、と主張している経済学者は(伊藤隆敏東大教授も否定的なようですし)、若田部昌澄教授、FRB理事時代のバーナンキ議長位なんでしょうか? *4 リフレ派では他に勝間和代氏らも財政マネタイズには積極的な考え方のようですね。

*1:野口悠紀雄の経済大転換論 日銀は貨幣供給量を動かせない

*2:札割れは日本国債の人気の高さの反映ですから、この主張はどうかと思います。

*3:PIMCOの日本部門、ピムコジャパンのポートフォリオマネジメント責任者、正直知哉氏の指摘

*4:山本幸三議員バーナンキ理事応接メモ2003年4月