シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

アメリカ連銀と日銀の不換紙幣への捉え方の違い

以前、このブログの「日銀はなぜデフレ政策を堅持するのか」(2012-04-01)というエントリーで、日銀は不換紙幣というものを曲解しているのでは、という仮説を書きました。 この仮説を検証するためには日銀以外の中央銀行が不換紙幣をどう位置づけているのかを知りたいと思っていましたところ、現在新品では手に入らないのですが、大変有用な本がありました。「マネーを生みだす怪物」という本で、(著者はG・エドワード・グリフィンという金本位制崇拝者のようで、著者の主張にはちょっと賛同しかねるのですが、)この本の中で、連邦準備制度(FRS)における不換紙幣の位置付けについて、複数の連銀の見解が述べられています。

1.アメリ連邦準備制度(FRS)による不換紙幣への見解

不換紙幣:
I Bet Your Thought, Federal Reserve Bank of New York :title=NY連銀パンフレット] 「通貨を金と交換することはできず,通貨には他のどんな資産の裏付けもない。連邦準備制度紙幣にはどんな資産の裏付けがあるのかという疑問は会計学の専門家以外にはほとんど意味がない。 「銀行は借り手の返済約束(借金証書)をもとにマネーを創出している。・・・銀行は民間企業や個人の債務をマネー化してマネーを創出している。」

シカゴ連邦準備銀行パンフレット「現代のマネーのメカニズム アメリカ合衆国では紙幣も預貯金も商品としての価値を有していない。本質的にはドル紙幣は紙切れに過ぎない。預貯金は単なる帳簿上の数字である。硬貨には金属としての多少の価値があるものの、一般には額面よりずっと小さな価値しかない。
それではこれらの手段-小切手、紙幣、硬貨-が債務の弁済その他の通貨としての目的として額面通りに受け入れられているのはどうしてなのか? 大きな理由は、自分が望むときに通貨として他の金融資産や商品、サービスなどと交換できるはずだという人々の信頼にある。 
また、ひとつには法律的な問題でもある。 通貨は政府によって、「法貨」と定められている――従って、受け入れざるを得ない。

更にセントルイス連銀の会報(p25)には、脚注として細かい字で驚くほどに率直な説明がなされている。

現代のマネー制度は布告を基本とし――命令によって通貨が定められ――預金機関は受託者として自ら債務を負うことを宣言し、その債務の一分が準備資産の役割を果たしている。紙幣には、「本紙幣は官民全ての債務を弁済する法貨である」と印刷されている。 この通貨による債務の弁済は何人も拒むことはできないが、日常的取引で通貨の使用を制限する契約は容易に結ぶことができる。 
 しかし、なぜマネーが受け入れられるかについては、連邦政府が通貨による納税を求めていることが力強い説明となる。 納税という債務履行の必要性が予測されていることから、完全な不換紙幣であるドルの需要が生まれる。


アメリカ人にはマネーサプライの全てに債務以外の裏付けもないという事実はなかなか飲み込めない。 まして、全員が借金を返済したらもはやマネーは存在しなくなるという驚くべき事実は思い描くことも難しい。 しかしそれが事実なのだ。 1セントも流通しなくなる――全ての硬貨と紙幣は銀行の金庫に戻ってしまう――し、誰の当座預金にも1ドルも残らない。 要するに全てのマネーが消失する。

マネーは個人が選ぶ資産のひとつかもしれないが、マネー全体を考えた時には資産ではなくなる、という事実を押さえておく必要がある。 1,000ドル借りた人は自分は1,000ドル豊かになったと考えるかもしれないが、実はそうではない。 1,000ドルの現金資産は、1,000ドルの借金という債務と相殺され、当人の資産は結局ゼロである。
銀行の会計も規模は大きいが同じことだ。 国中の全ての口座を集めたものは経済を支える莫大な資産だろうとつい考えたくなる。 だが、どのマネーも1セント残らず誰かへの借金なのだ。 借金のない人もいるだろう。借金だらけの人もいるだろう。だが全部を足しあわせれば、国家的にはプラスマイナスゼロになる。… 実態は債務・借金である。… アメリカのマネーは債務をベースにしていると分かれば、FRS(連邦準備制度)が表向きの発言とは逆に、アメリカの債務を減らすことには全く関心がないのも意外ではない。 フィラデルフィア連銀はこう述べている。「一方、国家債務は恵みとは言わないまでも有益であるという大規模な分析が増えている。… (それらの分析では)国家債務は全く減らす必要はない。

シカゴ連銀も言う。 「債務――官民を問わず――は無くてはならない。債務は経済のプロセスで不可欠な役割を果たしている。…債務をなくすことが必要なのではなく、慎重に利用し、賢明に管理することが必要なのである。

2.日銀による不換紙幣の解釈
これに対し、日銀による不換紙幣の解釈は次のようなものです。 *1

日本銀行が設立された当初、日本銀行の発行する銀行券は、金や銀との交換が保証されていました。こうした制度の下で、日本銀行は、銀行券の保有者からの金や銀への交換依頼にいつでも対応できるよう、銀行券発行高に相当する金や銀を準備として保有しておくことが義務付けられていました。このような銀行券は、いわば日本銀行が振り出す「債務証書」のようなものだと言えます。このため、日本銀行は、金や銀をバランスシートの資産に計上し、発行した銀行券を負債として計上しました。
その後、金や銀の保有義務は撤廃されました。一方で、銀行券の価値の安定については、「日本銀行保有資産から直接導かれるものではなく、むしろ日本銀行の金融政策の適切な遂行によって確保されるべきである」という考え方がとられるようになってきました。こうした意味で、銀行券は、日本銀行が信認を確保しなければならない「債務証書」のようなものであるという性格に変わりがなく、引き続き負債に計上しています。このような取扱いは、米国や英国の中央銀行など、主要中央銀行において一般的となっています。

また、日銀西村副総裁は次のように述べています。

 [デンバー 2011年 01月 7日 ロイター]  日銀の西村清彦副総裁は7日、中央銀行は、国債購入が景気刺激策ではなく政府債務のマネタイズであるとの印象を与えないよう留意すべき、との認識を示した。
 西村副総裁は、米コロラド州デンバーで開かれた米国経済学会(AEA)のパネル討論会で、「中央銀行は、国の債務管理で問題が生じるのを回避する必要がある。債務をマネタイズしているとの印象を与えないようにすることが非常に重要だ」と述べ、中銀が政府債務をファンディングしているとの懸念を市場が持てば、長期金利が上昇する可能性があると指摘した。
 日銀が新たに創設した資産買入基金について同副総裁は、資本市場におけるリスク回避の動きを軽減することが目的だと説明した。
 また、日米両国とも人口の高齢化が進むなか資産バブルの崩壊を経験したと指摘、日本は企業セクター、米国は家計セクターにおいて、債務レベルが過剰だった時期を経て、現在は引き下げる調整を行っている、と述べた。

 アメリカの連銀はマネー(不換紙幣)による経済活動を光とすれば、国債などの負債は陰のようなものでなくてはならないものと解釈しているようです。
 これに対して日銀は、「陰が大きくなると困るので、光は弱いほうが良い」と解釈しているようです。
 光が弱過ぎると植物が育たないのと同様、我々日本国民もマネーなしでは暮らして行けないのですが、日本では日銀・政府共に、国民からマネーを減らす政策にのみ関心が深いようです。

本日債券ファンド大手のPIMCOでは、日本が将来的に破綻する可能性はゼロに近いというレポートを出しています。

  6月29日(ブルームバーグ):債券ファンド世界最大手、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)は、公的債務残高が国内総生産(GDP)の約2倍と主要国で最悪の状況にある日本が将来的に財政破綻する「確率はゼロに近い」とみている。

PIMCOの日本部門、ピムコジャパンのポートフォリオマネジメント責任者、正直知哉氏は28日の記者説明会で、公的債務の持続可能性については「政府は徴税権を持っているので、民間部門のバランスシート(資産・負債状況)も合わせて考えるべきだ」と指摘。日本には長年の経常黒字で積み上げた世界最大の対外純資産があるため、「将来的に経常赤字基調になってもバッファーがある」と説明した。

正直氏は、日本はユーロ圏の重債務国とは異なり、公的債務が「自国通貨建てで、円を発行する中央銀行を持っている」とも指摘。仮にデフォルト(債務不履行)の恐れが生じた場合でも、国家として紙幣の増刷を選択すれば回避できるという。金融危機を受けて財政状況が悪化した「先進国の国債は全て『汚れたシャツ』だが、日本は『ましな汚れたシャツ』だ」と評価。足元では日本国債の「相対的な魅力は以前より高まっている」と述べた。

日本国債への投資戦略としては、償還までの残存期間が「7−10年を中心に保有」すべきだと推奨。半面、10年後の債務レベルは今より悪化している可能性が高く、経常収支も早期赤字化は見込んでいないものの「長期間にわたって徐々に悪化していく」ため、超長期債は避けるのが賢明だとも語った。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは4日に一時0.79%と約9年ぶりの低水準を付け、27日にも0.80%に低下した。

富の移転、民間から政府へ
衆院は26日、野田佳彦首相が進める財政再建の柱となる消費増税法案を可決。現在5%の消費税率を14年4月に8%、15年10月に10%へと2段階で引き上げる内容だ。参院で成立し、計画通り増税できれば1997年4月以来。ただ、政府は消費税率を10%に引き上げても、2020年度に基礎的財政収支プライマリーバランス)を黒字化できないと試算する。

正直氏は、民主主義国家では債務問題に対し、歳出削減や増税に踏み切りにくく、低金利政策によるインフレ期待上昇・実質金利低下を通じて民間から政府への実質的な富の移転をもたらす「金融的な抑制」に走りやすいと指摘。先進国では「中銀が国債管理政策に組み込まれ、マネタイゼーション(事実上の政府債務引き受け)を行う」流れにあるとの見方を示した。

日銀首脳は機会があるたびに、中央銀行マネタイゼーションを行うと思われた途端、長期金利は急上昇する、といった破綻話に明け暮れますが、実際の市場関係者は、白川総裁の脳内のバーチャル市場関係者とは随分違った見方をしているようですね。

マネーを生みだす怪物 ―連邦準備制度という壮大な詐欺システム

マネーを生みだす怪物 ―連邦準備制度という壮大な詐欺システム