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日銀券ルール 賛否両論から見えること

8日の読売など各社より、日銀による国債保有残高が銀行券残高を初めて超えるという試算が報道されています。

日銀保有国債92兆円2012年5月9日 読売新聞
日本銀行は8日、4月に決めた追加金融緩和に伴って長期国債の買い入れを増やすため、今年12月末の国債保有残高が約92兆円に達し、銀行券の発行残高(約83兆円)を初めて超えるとの試算を発表した。
 国債保有残高の内訳は、資産などを買い入れる基金での購入分が約24兆円と3月末から18兆円増える。さらに、通常のオペレーション(公開市場操作)による購入分が約68兆円と4兆円増える見通しだ。
 日銀は財政規律の観点から、国債保有残高が銀行券(お札)の発行残高を超えないとの内規を定めている。日銀は基金分は別枠扱いにすると決めており、内規には抵触しない。

日銀での国債保有残高を日銀券の発行残高に抑えるという日銀券ルール。
このルールに対し容認的な立場の解説が日経ネットマネーに載っています。

日銀券ルール」の撤廃をめぐり攻防へ…。日銀は死守の構え
 日経ネットマネーSCOOP THE MONEY
 政府が日銀をアテにして国債を乱発しないよう、日銀は国債購入額を日銀券(紙幣)の発行残高以内に収めている。
いわゆる「日銀券ルール」と呼ばれるものだが、こうした厳格な規定は他国の中央銀行にはない
ところが、現行の月2兆3000億円ペースで国債購入を続けた場合、2014年5月に保有国債残高が日銀券の総発行残高を超えてしまう。計算のうえでは、国内の紙幣全部を集めても、日銀の持つ国債の現金化は不可能になる。

そのとき、日銀の選択肢は2つ。国債購入を減らして資金供給を絞るか、ルールを改正して上限を引き上げるかだ。

政府や与野党は、日銀に対して資金供給を増やすよう求めている。景気の低迷がさらに長期化した場合、資金難から財政出動ができないため、唯一の頼みが日銀による資金供給の増大なのだ。
ただ、日銀が国債購入のストッパーを外した場合、急激な円安を招く可能性があり、さらに物価急騰に進むと、手がつけられなくなる恐れがある。物価の番人であり通貨の番人である日銀だけに、内部では「円」を減価させる政策には反対論が根強い。

この記事によれば、日銀が国債を買い続ければ、円安・インフレになるのが困る、というのです。
日本は、20年近く円高・デフレに苦しんでいるんですが。

日銀券ルールに対し否定的なのは例えば産経の田村秀男編集委員がその急先鋒です。
少々前の記事からですが。

「日銀券ルール」撤廃急げ 自在のFRB新政策  産経ニュース2011.9.25 11:07 編集委員・田村秀男 
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110925/fnc11092511160000-n1.htm
 米連邦準備制度理事会FRB)のバーナンキ議長は新政策を試みる。長期の米国債を計4千億ドル(約30兆円)追加購入するのだが、「日銀券ルール」(長期国債の日銀保有をお札の発行残高以内に抑える日銀の内規)を金科玉条とする日銀から見れば破天荒な政策である。日銀は正しくFRB政策は間違っているのだろうか。
 バーナンキ議長は1930年代の「大恐慌」や90年代初めの日本のバブル崩壊後のデフレを研究してきた。デフレ退治のためには、ヘリコプターからお札をばらまいてもよい、と言い放ったこともある。
◆ドル資金、3倍に膨張
 3年前のリーマン・ショック後、バーナンキ議長はお札を大量に刷った。1度目は紙くずになりかけた住宅ローン担保証券を金融機関から買い上げて、不良資産化を食い止めた。次には米国債を買い上げ、オバマ政権による財政資金需要に対応した。FRBは現在までにドル資金の創出規模をリーマン前の3倍にも膨れ上がらせた。
 目的は金融市場の安定ばかりではない。デフレ阻止だ。不動産も株式相場も、所得も物価以上の速度で下がり続ける日本型デフレの泥沼にはまってしまうと、脱出もままならない。
 お札垂れ流しの中で、米国の今年の消費者物価上昇率は3%台をつけている。だが、カネを刷って銀行に流し込む「量的緩和」だけでは景気はよくならない。米国の個人消費は盛り上がりに欠け、失業率も9%台に張り付いたままだ。日銀は2001年3月から5年間、量的緩和政策をとったが、デフレは止まらず、いまだに続く。
 次のステップは何か。バーナンキ議長はずっと考え込み、悩んできたに違いない。今回打ち出した追加緩和策は、過去2度のような派手な緩和策ではない。
 FRBは12年6月末までに満期までの期間が6〜30年の国債を4千億ドル分買い入れ、3年以下の国債と入れ替える。この結果、12年末には保有米国債の平均残存償還期間は現行の6年超から8年超に伸びる。さらに、リーマン後に買い上げた政府系の住宅金融公社の債券や住宅ローン担保証券の満期償還資金をすべて再投資する。回復が遅れる住宅市場のてこ入れを狙う。
 現代の経済は、資産もモノも価格が上がることを前提に成り立っている。消費者は不動産価値が上がるなら借金して住宅を買う気になる。企業は借入資金の金利以上に製品の値段が上がっていると、返済の見込みが立つから、企業はビジネスを拡張する。適度なインフレ率を保ちながら、金利をインフレ率以下の低めに誘導すれば、投資が回復する。中央銀行は短期金融市場、つまり銀行間の融通金利を操作するのがメーンなのだが、FRBは直接、長期金利を引き下げ、住宅や民間設備投資を促す政策に踏み出したのだ。
◆長期国債買い上げ鍵
 日銀のほうは民間金融機関による新成長分野への貸し出しを促進するための特別融資枠を設けたり、不動産投資信託、上場投資信託などいわゆるリスク資産を購入している。お札を大量に刷る米国や欧州に比べて量的緩和規模は小さく、円高・デフレを止められない。株価も円高とともに下落しがちだ。日銀は半端な量的緩和のために、新手法を生かしきれないでいる。
 日銀は、本格的な量的緩和に踏み出せないように自縛している。冒頭に挙げた「日銀券ルール」である。日銀による長期国債の買い切りや引き受けを拒むことが「宗教」だと言ってはばからない故速水優総裁が01年3月の量的緩和政策時に導入した。大規模な量的緩和のためには、巨額に上る長期国債の買い上げが欠かせない。そうなると、政治の圧力で日銀はずるずると国債を引き受けさせられ、悪性インフレを招いてしまうという恐怖症による。日銀生え抜きの学究肌、白川方明総裁は日銀ルールの強力な継承者である。
 FRBの長期国債保有は10年末にはドル発行残高を超え、現在は1・6倍以上に上る。日銀のほうは、小刻みに長期国債を買っては売る操作を繰り返し、日銀券発行残高の天井に突き当たらないようにしている。もとより、日銀のようなルールを世界の主要中央銀行は持たない。学術的根拠にも乏しい。
 対照的に、FRBはドル発行量に縛られず自在に量的緩和政策を駆使し、その成果を挙げるために買い上げる資産構成を変更し市場を通じた経済活性化に大胆に挑戦する。
 日銀が最優先すべき使命は超円高の是正と脱デフレであり、大震災からの復興の条件を創出することだ。その妨げになる内規はさっさと再考、廃棄すべきではないか。

賛否両論を両方読んで明らかなのは、

  • 日銀券ルールのような根拠のない自主ルールを持つ中央銀行は他にない
  • 日銀が国債を大量に買っていけばインフレになり、円安になる

 賛成派反対派両者の違いは、反対派がインフレ・円安が行き過ぎる、賛成派は適度なインフレ・円安になるという違いだけです。
となると、日銀券ルールを撤廃しとにかくインフレ・円安にしさえすれば、インフレ・通貨安のコントロールなど、日銀以外の中央銀行は大抵普通にやっていますから、コントロールができないというのなら、海外中央銀行の政策当局者に、教えてもらえばいい話だと思います。

 日銀幹部が自分が金融政策で無能だから日本はインフレにできないというのなら、全員さっさと辞表を出せばいいのではないでしょうか。