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日銀はもはや金融政策をやり尽くしたのか

 本日は日銀政策決定会合が開催されました。 1ヶ月前の会合で、事実上の1%のインフレ目標政策を導入したことを受け、市場では一段の金融緩和に期待する声もありましたが、蓋を開けてみると金融緩和は見送られたようです。

産経Bizより) 日銀政策決定のポイント

・3月末に期限を迎える成長基盤強化のための融資制度を2年延長し、融資枠を3兆5000億円から5兆5000億円に2兆円増額
・成長基盤融資の機能を拡充し、ドル建て融資と小口融資を新設
・4月末に期限を迎える東日本大震災の被災地金融機関向け融資制度を1年延長
ゼロ金利政策は維持。追加金融緩和は見送り

 決定会合後の白川総裁の記者会見では「成長企業への融資を強化することで、日本経済全体の成長力を押し上げ、デフレ脱却につなげる」としていますが、産業政策を中央銀行がやることへの違和感は、マスコミの行間からも伝わってきています。
 白川総裁としては「日銀はデフレ脱却のための金融政策はもうやり尽くしたので、何もしないわけにはいかないので、せめて産業政策をやった。」とでも言いたいのでしょう。 「日銀は中央銀行として金融政策ではもうやることはやり尽くした」、これは本当なのでしょうか。

 まず、あらためて日本のインフレ率を数年に亘って見てみましょう。
情報源は「世界経済のネタ帳」です。ここから2006年から2010年までの5年間、日本の物価上昇率が世界約180カ国中どのあたりだったのかを調べてみました。以下は毎年のインフレ率が低い、あるいは低すぎる、20カ国付近だけを取り出したものです。


2010年:日本の物価上昇率175位/181カ国(ワースト7位)

2009年:日本の物価上昇率166位/181カ国(ワースト16位)

2008年:日本の物価上昇率179位/180カ国(ワースト2位)

2007年:日本の物価上昇率176位/180カ国(ワースト5位)

2006年:日本の物価上昇率173位/180カ国(ワースト8位)

日本はインフレ率(CPIの上昇率)で見た場合、ワースト20位以内の常連ですが、ワースト1位ではありません。(注:CPIはデフレに感応しにくい指標です。 デフレに感応する物価指標であるGDPデフレータで見ると、この5年間日本はワースト5位をキープし、特に2009年2010年の最近2年はワースト1の座を堅持しています)*1

そこで、に日本と共にこの5年間ワースト20位以内に入った国々(以下「デフレ懸念国」)の物価の低さについて、その国がコントロールできずに物価が低くなっているのか、その国が狙って物価が低くなっているかを調べてみました。 次の図は、2006年-2010年のインフレ率の平均値(棒グラフ)とその標準偏差(赤線)です。

世界の国々のインフレ率(青棒)とその標準偏差(赤線) 
世界180カ国中、インフレ率平均値(2006年-2010年)が低い方から39カ国を表示。 その中でもインフレ率が最低は日本。 
日銀はCPI=1%±1%を目指している筈だが、標準偏差の幅からみて、実際は0%を狙っていることが分かる。
CPI=0%の場合、CPIという指標の有する「上方バイアス」の影響で、実際の物価はデフレ真っ只中。
*2
 インフレ率が負になることがあったアイルランドニジェール、ツバル、ブルキナファソギニアビサウなどの国々は
物価がコントロールされていないために時折インフレ率が負になっているものと考えられる。

このグラフから見て、1)日本が過去5年間でインフレ率は世界最低最悪、2)日銀はその間「物価安定の理解」で言われていたようにインフレ率1%±1%を狙っていたとは考えられず、狙っているのはインフレ率0%で、標準偏差から見て、デフレ状態であるインフレ率0%を精度よく達成している 3)インフレ率が時折負になる一部の発展途上国は、インフレ率のコントロールができないためにインフレ率が負になることがある、 といったことがわかります。
 毎年のインフレ率ランキングのワースト上位は、日本以外は殆ど毎年入れ替わっています。
つまり、インフレ率が1%以下の実質デフレ域に入った場合も、インフレ率1%以上に戻すことは、日本以外の、インフレ率をコントロールできない国とっては極めて容易であると言えます。物価統計など国民に意識されていない国でも容易にインフレにすることはできる、というか簡単になってしまう、という事実がこのグラフからわかります。

 日銀は「金融政策をやり尽くした結果、日本はデフレ」との立場ですが、これらのデータの示すところは「日本には日銀があるからデフレ」ということです。

 なぜ日銀が日本の実体経済に有害なデフレを狙うのか、その理由はわかりません。「日銀はインフレ退治を目的に設立された中央銀行だから」*3、 「賃金がデフレから守られている実質公務員の日銀にはデフレの害が実感できていないから」、「速水元総裁などの失策の前例を踏襲すると同時に、失策した総裁らの権威も守りたいから」、「日本の周辺国の工作員が日銀を支配しているから」。
いろいろネット上では語られていますが、日銀が普通の国中央銀行としては失格であることは間違いないでしょう。

*1:日本のGDPデフレータワーストランキングは、2006年ワースト5位2007年ワースト3位2008年ワースト2位、1位がジンバブエ。そして2009年2010年が連続ワースト1位と順位がどんどん上がっています。

*2:日本がデフレであることは、サラリーマンの平均賃金が毎年下がっていることなどでも分かる話ですが。

*3:これは事実でしょう。