シェイブテイル日記2

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  ロシア大統領選ではプーチン氏が大統領に返り咲きを決めました。 そのプーチン氏は北方領土問題の解決に意欲を見せていると報道されています。*1

露大統領選 プーチン返り咲きで領土問題進展に期待 冷ややかな見方も2012.3.6 00:26

 4日投開票のロシア大統領選でプーチン首相が圧勝で返り咲きを決めたことを受け、政府では、停滞している北方領土問題が進展するかもしれないとの期待感が高まっている。
 野田佳彦首相は5日、プーチン氏と電話会談し、祝意を表明。プーチン氏が柔道の有段者であることを念頭に「『始め』の号令をかけて日露関係の次元を高めるべく協力していくことを楽しみにしている。領土問題について、プーチン首相との間で英知ある解決に取り組みたい」と連携強化を呼びかけた。
 首相が期待を寄せるのは、プーチン氏が2日の海外メディアとの会見で、北方領土に関し、柔道の「引き分け」という表現を用いて「負けないために大胆な一歩を踏み出す必要がある。最終的に解決したい」と意欲を示したことが大きい。首相は3日の海外メディアのインタビューでも「プーチン氏に問題を解決しようとの意欲を感じる。さまざまな議論を深めていければ」と秋波を送った。
 とはいえ、外務省では「発言は従来の立場から大きくはみ出していない」(幹部)と冷ややかな見方が根強い。そもそもプーチン氏はこれまで歯舞、色丹のニ島を返還するとした1956年の日ソ共同宣言から譲歩するような発言は一度もしていないからだ。
 しかも野田政権は「不法占拠」との表現を差し控えるなど「刺激しないこと」を対露外交の基軸にしてきた。これが逆に足元を見られる結果を招いたとの指摘もある。

この記事は、1956年の日ソ共同宣言以降の日本政府の基本方針「四島一括返還」論に則って書かれています。
プーチン氏が仄めかすニ島譲渡と、日本政府の四島一括返還。
どちらが日本政府が求めるべき戦略なのでしょうか。

北方領土問題の解決策 海上面積(排他的経済水域)面積は筆者推定

歯舞色丹は北方領土の中では面積比わずかに7%と大変小さい島々であることは事実です。
ただ、その周辺に広がる海は広く、北方領土のうち、歯舞色丹に属すると考えられる海域は全体の4割前後に達するとされており、その面積は4〜8万平方キロと九州から北海道の面積に匹敵し、海産資源の量も少なくありません。*1 

 また「筋論」から言えば、北方領土の4島は以前は日本に帰属していたことは間違いありませんが、ロシアにとって国後島択捉島が手放せない理由が次の地図にあります。

モスクワから見る北方領土問題 
ロシア(モスクワ)から見ると北方領土のうち国後島択捉島周辺の海峡は、ロシア国防上米国海上戦力からの要衝にあることが分かる。 これに対し、歯舞色丹は、ロシアが国後択捉を手放さない限り、国防上の意義は小さい。

 韓国が不当に領土を主張する、竹島のような人が殆ど住んでいない島でさえ、数名の「違法実効支配者」の排除はただごとではありません。 国後択捉島は単にロシア人1.5万人が暮らして実効支配を続けている島、というだけではなく、この地図に見る通り、米国に比べると海軍力に劣るロシアにとって、国後択捉両島に挟まれた海峡は国防上の要衝に当たる、ということです。 従って、ロシアが国後択捉島を手放す公算は国防上は限りなくゼロに近いのではないでしょうか。

 視点が変わりますが、現在のロシアが敢えて日本に歯舞色丹二島譲渡を仄めかす理由のひとつは、サハリンの原油天然ガスを日本に売却したいという思惑もあるのではないでしょうか。 と言いますのは、例えば米国などでは最近シェールガスなど非在来型資源が開拓された結果、天然ガスの米国内価格は大幅に値下がりしています。 天然ガス資源大国ロシアも価格下落の影響を被っているのに対し、日本は天然ガスLNG船で輸入せざるを得ない現在は、日本の天然ガス購入価格は高止まりしており、日本では米国の天然ガス価格は6倍もの高価格で買い入れせざるを得ない状態となっています。 こうした地政学的な事情もあってか、日本にもサハリンからの天然ガスパイプラインの受け皿となるべく1998年には「日本パイプライン株式会社」という会社も設立されているようです。
エネルギー安全保障上から考えれば、日本では石油・天然ガスの輸入先を拡大することが必要ですから、この点で日露の利害は一致しているわけです。
 

左:国別天然ガス埋蔵量 右:日本と米国での年間平均天然ガス価格
(左)ロシアは世界の天然ガス埋蔵量の25%を占める天然ガス大国。2007年末データ*2 
(右)石油天然ガス・金属鉱物資源機構データ 単位:US dollars per million Btu. 天然ガスパイプラインによる輸入のメリットは、天然ガスの液化コストが不要なこと。この液化コストは100万Btuあたり最小でも3ドル程度なので、LNG船でしか天然ガスの輸入ルートがない現在の日本は高い天然ガスを買わざるを得ないということになる。

 ロシアは二島返還ではなく二島譲渡など、対価要求をを臭わす用語を使うなどしたたかな外交を感じさせずにはいない国ではありますが、上記のようにロシアが4島を返す可能性は殆ど考えられないことや、エネルギー安全保障上の問題を含めて、日本政府としては「二島譲渡を受けるべきか止めるべきか」という視点から、現実的な選択をすべきではないでしょうか。

*1:排他的経済水域は線引きの仕方により大きく面積が変わり、北方領土のうち歯舞色丹に属する面積も最小2割から最大5割とされています。

*2:BP Statistical Review Of World Energy 2008