シェイブテイル日記2

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減価する紙幣について地方自治体はどう捉えているか


デフレ不況が長引いています。 有効求人倍率は0.5倍程度で低迷し、'97年以降自殺者数は3万人台で高止まりしています。 政府日銀が正しい金融財政政策を採ればデフレ不況から抜けられることは昭和恐慌時の高橋財政の効果などから明らかです。 ただCPI=0%というデフレ目標政策を掲げる日銀と増税にしか関心を持たない財務省率いる野田政権ではデフレ脱却は夢物語です。

そうなると、せめて一地方自治体だけでもデフレから脱却できないかと考える人も出てきます。
長野県の職員M氏もその一人で、減価する紙幣「ヴェルグルの労働証明書」と同様の仕組みを取り入れたら景気刺激効果が大きいという建白書を長野県に提出されたそうです。*1

緊急経済対策建白書

長野県知事 村井 仁 様           
                            長野県建設部 **  主査  ****

拝啓

突然、建白書を上表するご無礼をお許しください。村井知事には、日頃から 県民、ならびに私たち職員のために、大変なご尽力をいただき、ここに厚く御礼申し上げます。
さて、私が突然、建白書を知事に上表するのは、緊急経済対策に対する二つの提案があるからです。
まず一つ目です。それは定額給付金についての提案です。定額給付金については、70%を上回る国民が反対しているようです。
反対者の意見としては、景気刺激策にならないということだと思います。私もそう思います。そこで、この給付金を銀行に預金し、この預金を担保に、地域振興券を発行することを提案いたします。
1999年に実施された、地域振興券では、使用が一回だけでした。これでは、効果がありません。そこで、今回の振興券は複数回、何度でも使えることにし、使用しなかった場合には、4半期毎に、持越し税(新しい券と交換する手数料又は再使用のための印紙代。税率は額面に対し年5%、週0.1%に設定)を徴収することにします。

持越し税の意義は、この振興券に普通の通貨が持つ、「価値の貯蔵手段」としての機能を無くし、流通回数を多くするためです。まさに、この持越し税こそが景気浮揚の妙案となります。そして何より、長野県や市町村の借金を増やすことなく景気浮揚ができます。また、商店が他県からの商品の仕入れに、日銀券が必要であれば、銀行には、この振興券と同額の給付金という担保があるので、銀行で交換ができます。

このアイデアは私が突然思いついたものではありません。世界恐慌にあたり、私なりに、財政、金融、経済について勉強していくなかで、シルビオ・ゲゼルという経済学者を知りました。そして、この学者の唱える「自由貨幣理論」を実践して大成功をしたオーストリアチロル地方ヴェルグルという人口わずか4,300人の田舎町のことを知りました。

世界大恐慌を克服するため、1932年に「ヴェルグルの労働証明書」というスタンプ通貨が発行され、その通貨は通常通貨の14倍の速度で流通したそうです。そして、この町では、上下水道が完備され、ほとんどの家が修繕され、町を取り巻く森も植樹されたそうです。

この考えを現代に置き換えて、今の金融恐慌を乗り越える現実的方法はないか、必死で考えました。そして、思いついたのが、「定額給付金を担保とする複数回使える地域振興券」です。

次に二つ目です。これは中長期的課題です。(以下略)

これに対し、長野県は以下のように回答したそうです。

(長野県からの返信)
地域振興券のご提案につきまして、知事はたいへん興味深く拝見し、循環の重要性についても同じ思いであります。
また、地域振興券を循環させるには何らかの強制力が必要であることも否定しません。
しかしながら、仕組を考えていく上で若干疑問が生じたので勉強させていただきたく存じます。
****様の「5%の手数料」は、言い換えると「期限が到来すれば貨幣の価値が下がること」であると思いますが、
最初に地域振興券をもらった人については、天から降ってきたものなので使いたいと思うでしょうが、労働や商品を売る側は、振興券をその対価として受け取るわけで、通常の日銀券の代役に過ぎないものであり、何ヶ月後かに価値の下がるものをわざわざ受け取るのかという点に疑問を持ちます。
オーストリアチロル地方ヴェルグルにおいては、明日のパンにも困っているような状況下において、基本通貨をはるかに凌ぐ量のスタンプ通貨(地域振興券)を流通させ、さらに通貨価値の減少分を政府が強制的に召し上げる仕組を構築できたことで実現したのではないかと思われ、今日の日本で果たして同様のことができるでしょうか。
「流通」を主眼とするならば、デノミネーションを実行し、日銀券そのものを流通させる方が効果的であり、手間もかからないと思われますが・・・。
ヴェルグルにおいて、スタンプ通貨が通常通貨の14倍の速度で流通した背景・制度などの理由と、前述のような考え方の是非についてご教示いただければ幸いに存じます。

どうやら、折角の建白書も、その主旨がきちんと理解されないまま終ってしまったようです。
その後、この建白書と同様の提案を、各自治体に呼びかけたサイトがありました。
提案の文面は恐らく上の建白書と同様の内容だったでしょう。
これに対し24の自治体から回答があったようです。その回答、24件あるはずですが、内容は3つのパターンしかありませんでした。


パターンA
平素は、大阪府政の推進にご協力を賜り、心よりお礼申し上げます。
さて、ご意見を頂きました定額給付金の寄附についてですが総務省によりますと、定額給付金を「個人への給付」以外の経費に流用することはできないとされていることから、寄附を募ることで未来への投資を行えないか、市町村に提案したところです。

パターンB
県政提案メールについて
県政提案メールにご意見いただきありがとうございました。
今回の定額給付金は、国の補助事業として市町村が実施するものであり、
(1)迅速かつ早期に実施できる(地域振興券の場合と比較して、券の印刷、利用店の登録、利用後の換金等が不要)
(2)基準日(平成21年2月1日)の住所地である市町村から給付を受ける仕組みだが、基準日以降に転出(引越し)する世帯であっても不都合が生じない(地域振興券の場合は、基準日に住んでいた市町村から受け取っても活用できないおそれがある)
(3)券の偽造リスクがない
として、国の補助金交付要綱において、地域振興券方式ではなく現金により給付することとされたところです。

パターンC
ご提案ありがとうございました。ご提案を今後の市政の参考にさせていただきたいと思います。


図1 減価する紙幣の提案に対する地方自治体の回答パターン
民間からヴェルグルの減価する紙幣の採用を提案した24自治体の回答パターン。パターンはわずか3つしかなく、その内パターンA,Bは総務省への問合せの丸写しであり、パターンC はご意見承りました、というだけだった。*2

長野県の職員M氏にしても、その建白書に近い内容で各自治体に意見書を書いた市民にしても真摯な気持ちからの提案をされたのだと思います。
そうした提案に対し総務省に問い合わせるだけで、自ら考える力を持たない地方自治体の姿を見せられると暗澹たる気持ちになるのは筆者だけでしょうか。


【今回の分析の元となったサイト】http://www.anti-rothschild.net/appeal/appeal_01.html

*1:減価する紙幣、ヴェルグルの労働証明書についてはヴェルグルでググッていただくほか、[http://breadbasketissues.seesaa.net/article/116594654.html:title=こちらやこちらに詳しい解説サイトがあります。

*2:パターンAの自治体:大阪府佐賀県、パターンBの自治体:大田区・中野区・草加市・福岡県・神奈川県・群馬県三重県長野市和光市山口県・宮崎県・静岡県山梨県丸亀市防府市新潟市香川県岐阜市、パターンC の自治体:埼玉県・多摩市・江戸川区高崎市