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デフレ日本での消費税増税は将来の安心にはつながらない理由

【要約】
野田政権が掲げる「社会保障と税の一体改革」は、増え続ける年金の安定財源として消費税を充てることなどが予定されています。
しかし簡単な単純化したモデルから、経済成長がないなかでは消費税増税を行ったとしても、将来の安心につがるような結果は得られないことが導かれます。

 野田政権では社会保障の安定財源として消費税増税を掲げています。
この消費増税の具体策を盛った社会保障と税の一体改革について、日経新聞は以下のように伝えています。

野田政権100日、消費増税へ重責 許されぬ曖昧決着  
日経新聞 2011/12/10 3:30  東日本大震災からの復興策が焦点だった今国会は9日、一川保夫防衛相、山岡賢次消費者担当相への問責決議で幕を閉じた。震災復興はようやく緒に就いたばかり。欧州発の債務危機はいつ日本に飛び火するか分からない。政争をしている余裕はないはずだ。

■「素案」に専念
 9日夕、国会閉会を受け、首相官邸で開いた野田佳彦首相の記者会見。防衛相らの更迭を重ねて否定した首相は、当面の懸案を列挙した。 来年度予算編成、今年度4次補正、原発事故対策……。最後に自ら「最重要課題」と強調したのが、消費増税の具体策を盛った社会保障と税の一体改革の素案とりまとめだった。 閣僚問責への対応は後回しにし、今は消費増税の道筋づくりに専念する――。記者会見は首相の決意表明に他ならない。「2010年代半ばまでに消費税率を10%に上げる」という政府・与党の方針に沿って、素案には増税時期や税率を書き込む。そのうえで、来年3月までの消費増税準備法案の提出に向け、与野党協議を迫るシナリオだ。 消費税率の10%への引き上げを主張するのは自民党も同じ。増税の必要性で一致しているのだから、活路はあると首相側は期待する。(後略)

 野田政権は「欧州危機が日本の財政に飛び火しかねない。だから消費税増税論議を加速すべき」という主張に沿って「2010年代半ばまでに消費税率を10%に上げる」べく、社会保障と税の一体改革の素案を取りまとめるとされています。
 日経新聞の記事は、「早期に消費税などで増税することで、将来予想される日本の財政危機が避けられるか、少なくとも先送りできる」という前提に立っているように思いますので、この前提について検討してみたいと思います。

 国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(2011年6月末現在合計で1189.1兆)が、2010年代半ば頃には、更に政府長期債務残高が積み上がり、1500兆円弱の家計の金融資産と拮抗する額となっていると予想されています。
 日本の金融資産のうち、金融機関が扱っている預金の総額が1200兆円ですから、預金残高と国の長期債務残高はすでに拮抗するレベルになっています。*1 *2

 図1単純化した国の長期債務モデル
ここで、国の長期債務の永続性を考えるための非常に単純化したモデルを考えてみます。 このモデルでは、
・日本の長期債務は全て国債の形をとっている
国債は、全て国内で消化されており、その原資は国民(非金融部門)の預金だけから成る
・長期債務残高は預金残高と拮抗している
 としましょう。
 この単純化したモデルは図1のように表すことができます。 *3
図1の左1/3は家計が自らの資産を市中銀行に預金している状態を示し、真ん中は市中銀行が預金を原資に国債を買い入れている状態、そして右1/3は政府が国債市中銀行に売って、歳入に充てている状態を示しています。
さてこの状態で、仮に消費税増税といった形で税収を増やそうとしたとしましょう。


 図2 長期債務が預金と拮抗した時に増税したときの消費税増税効果 
国が、家計や企業などに増税を求めた時、経済成長などで新たなマネーサプライが増えているのでない限り、現在すでにある家計や企業などの預金から支払う必要があります。 ところが、この単純化したモデルではこの預金が既に全て国債に姿を変えていますので、民間金融機関では、その引き出し要求分だけ、国債を売却する必要が生じてしまいます。 *4
結局、デフレでGDP総額が増えない中で増税した場合には、民間から政府への所得移転は発生するものの、新たに財源が生まれるわけではないんですね。
 もっと言えば、民間から政府へ発生した所得移転が、更に民間の別の人に移転するならば、これは民間の人々の間での所得再配分になり、景気中立的ですが、野田政権が意図しているように、単に年金原資にするか、国債償還原資に使うだけでは、現状と比較して新たに民間に資金を還流させることはならず、増税した分だけ民間の資金を吸い上げる分、景気を冷やすに過ぎないことも指摘できます。


先の日経新聞は続けて次のように伝えています。

 表裏一体である消費増税への反発はさらに激しい。首相批判を控えてきた小沢一郎元代表も連日、会合を開いて反増税の姿勢を鮮明にする。低下傾向の内閣支持率と13年夏の衆院議員任期満了までにある衆院解散・総選挙が、民主党議員を金縛りにする。

 財務省の意を受けた野田政権は増税にまっしぐらですが、ポスト菅の政権の座を争った残りの4人も濃淡はあれど増税反対でしたし、万一このまま増税民主党がまとまったとしたら、次の選挙では民主党は壊滅するでしょう。 
 ただ、大新聞などのマスコミに洗脳を受けた善良な市民の中にも「将来の安心のためには増税止むなし」と勘違いしている人たちが少なからずいることは残念なことです。

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*1:資金循環統計(2011年第2四半期速報)

*2:当初のエントリーでは、「家計の預金総額」を1200兆円と誤記していましたが、ご指摘を頂き修正しました。

*3:資金循環統計(2011年第2四半期速報)によれば、実際の国債保有者のうち、金融機関は66%の保有高であり、残りは中央銀行・政府が21%、海外が7%、直接家計・その他が6%の保有となっています。 

*4:分かりやすく、このように表現しましたが、実際には銀行内での納税者から、政府への預金口座名義付け替えになります。