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「政府紙幣発行問題」の顛末(2)

「政府紙幣発行問題」の顛末の続きです…。

日本国の正体 政治家・官僚・メディア――本当の権力者は誰か (現代プレミアブック)【日本国の正体 p190〜p194】
 財務省は麻生に近い安倍と菅の動きを見て、危機感を募らせた。
私の手元には、財務省が作成した政府紙幣を巡る「通貨の発行について」と題したA4版15枚の資料がある。幹部たちはこの資料を手に、自民党は言うに及ばず新聞や金融機関関係者の間を走りまわって、政府紙幣反対のキャンペーンを繰り広げていた。
 そんな財務省が安倍、菅と並んで麻生にも近い中川が財務大臣のポストから外れてくれればありがたいと考えたとしてもおかしくない。 財務相政府紙幣発行をめぐって実務上の最高権限を握っていたからだ。 
 政府紙幣問題は財務省にとっては、将来の増税がかかった最重要案件だった。ここで芽を摘み取って置かなければどうなるか分からない。 中川大臣はカギを握るひとりだったのである。

この政府紙幣問題がいかに財務省と日銀を揺さぶったかは、その後の展開を見ても明らかである。 菅は3月11日に議員連盟の緊急提言をまとめ、麻生首相に提出した。
 3項目からなる緊急提言で、最初に挙げられたのは「政府紙幣の発行・金融政策の強化」だった。その中で「日銀による国債買取りの大幅増額」と「デフレ脱却までの量的緩和の実施」「政府紙幣の発行あるいは日銀による国債の直接引き受け」を求めた。
2番目が「無利子国債の発行」、3番目が「贈与税減免による世代間の資産移転促進」である。この順番から言っても、政府紙幣を重視していたのは歴然である。

 日銀もあわてていた。
日銀は当初「政府紙幣などできっこない」と楽観していたが、麻生側近である菅が政府紙幣の検討を求める提言をまとめると、18日の金融政策決定会合で急遽、長期国債の買い入れ増額を決めた。 それまでの年16・8兆円から21・6兆円に4・8兆円増やしたのだ。
月にすると4000億円の増額である。 日銀は08年12月に月2000億円の増額を決めていたが、増額幅を一挙に倍増した形だった。
 これは金融緩和に腰が重い日銀としては、異例の対応だった。菅の議員連盟が提言でまっさきに掲げた「日銀の国債買い入れ増額」に応じることで、政府紙幣の具体化を阻もうという狙いがあったのは明らかである。 提言は日銀による国債の直接引き受けにまで言及している。 買い入れ増額に反対して対決姿勢を続ければ、国債の直接引き受けへの圧力が高まりかねなかった。 それもまた日銀にとっては悪夢だった。 日銀が政府の財布になるような話だったからだ。
 話が政府紙幣発行や国債の直接引き受けに進む前になんとか買い入れ増額で手を打とうとしたのである。

日銀が政府紙幣に反対するのはなぜか。
政府紙幣が発行されると、日銀は発行された政府紙幣をそっくり吸収せざるを得ない。 吸収しなければ、政府紙幣と日銀券のふたつが決済通貨として出回り、金融緩和と同じ効果が生じて市中金利が下がる。つまり、日銀が金利をコントロールできなくなる。 日銀の金融政策が無効になる。 (中略)

一方財務省はどうしたか。
金融関係者によれば、財務省政府紙幣に表向き反対論を唱えながら、日銀に対しては逆手にとった。それはこういうことだ。 財務省金利上昇を抑えるために日銀の国債買い入れ増額を求めていた。それによって、長期金利の上昇を抑えようとしたのだ。 長期金利上昇による財政の利払い負担増加を避けたかったからだ。
そこで財務省は「日銀が国債買い入れ増額をしないと政府紙幣が現実のものになりかねない」とささやいていた。政府紙幣を説得材料に使って、国債買い入れ増額を促したのである。

 政府紙幣の議論はその後、3月30日に有力な提唱者であった高橋の窃盗事件が明らかになったこともあって、あっという間に下火になった。 高橋は言論活動の中止を余儀なくされた。 その点でも結果的に財務省は勝利したと言える。

政府紙幣はウヤムヤ、藪の中へ…

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