シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

デフレ不況脱却策−マネタリストとケインジアンのどちらが正しい?

【要約】
・デフレ脱却・景気回復には、構造改革派とケインジアン型とマネタリスト型の3種の政策が主張されています。
・筆者はこれらの政策それぞれ単独ではデフレ脱却は困難と捉えています。

デフレを2年以上の物価下落というIMFの定義に従えば、日本では'98年以降13年以上のデフレが継続しています。
その間、2002年から2008年の間は「戦後最長の好景気」とも呼ばれましたが、実は雇用流動化・人件費変動費化により家計から企業への所得移転が起こっていましたから、この間も所得が減り続けたサラリーマンなどからみれば好景気の実感がないのも当然といえました。
 給与所得者にも実感できる真の好景気とするためには、企業売上が減り続けるデフレ状態では、個人の所得は増えませんから、まずデフレを止める必要があります。*1

 このデフレを止めるための処方箋について、主に以下のような主張があり、それぞれ近年経済政策として実施されてきました。

【1】構造改革
 日本の古いシステムや市場から退出すべき企業をまず清算し、効率化した経済システムを作れば、デフレを脱却できる。
 
 この考え方をとった政治家の代表は小泉首相で、竹中平蔵氏らが主導して「構造改革」をすすめることにより、実際にはデフレが深化し、日本経済が疲弊していったことを目の当たりして、中谷巌氏のように懺悔して転向する人がでています。 

【2】ケインジアン
 日本は需要不足にあるので、国債を発行し、公共事業を行いマネーを直接民間に供給すれば、「乗数効果」によりデフレ不況を脱出できる。

 この考え方をとった政治家の代表は、小渕首相でした。そのまえの橋本龍太郎内閣が緊縮財政・消費税増税などを行なったことにより、山一證券の破綻など急速な景気冷え込みとデフレの顕在化を見ました。そこで橋本内閣を引き継いだ小渕首相が景気テコ入れ策として公共事業を実施した結果、株価は1998年11月の12800円から2004月の20800円まで反騰しました。
 ただし、国の長期債務残高は、1997年の約500兆円から2001年には約700兆円と急速に増大し、歳出に占める国債費の割合が高止まりするようになりましたし、デフレ脱却も達成されませんでした。

日本の長期債務残高推移 財務省資料より 日本の長期債務残高は積極財政により積み上がった。

【3】マネタリスト
 現在の日本は需要不足にあり、日本銀行は金融緩和を行えば 日銀→市中銀行→企業のルートでマネーが行き渡りデフレを脱却できる。

 小渕内閣の積極財政政策で景気が上向き加減になった時、当時の日銀・速水総裁はゼロ金利政策を解除したものの、ITバブル崩壊もあり、再び景気は急速に悪化しました。 当時の日銀審議委員・中原伸之氏がひとり主張していた量的緩和政策を速水総裁他の審議委員も賛成せざるを得なくなり、2001年3月量的緩和政策が実施されました。*2 この後2002年以降、冒頭書きました「戦後最長の好景気」となりました。 ただ、給与所得者から見て景気回復実感はなく、デフレ脱却も達成されませんでした。

経済政策とGDPデフレータ 
自民党歴代内閣と日銀はそれぞれデフレ脱却・経済テコ入れを狙って経済政策を打ち出したが、デフレは脱却できなかった。 民主党内閣はデフレ脱却の意思も明確ではない。
注目すべきは、ケインジアン型政策とマネタリスト型政策を同時に実行した政権はなかった。

 構造改革派の主張は、需要を喚起するのではなく、生産を抑制しようとするものですが、生産を抑制しようとすること自身がデフレ強化政策ですから、デフレを脱却できるはずもありません。*3

 ではケインジアンの主張とマネタリストの主張はどちらが正しいでしょうか?
 筆者は、デフレ脱却への政策としてはどちらも完結していないと捉えています。その理由を下の図で示しました。

80年前の昭和恐慌のデフレ局面で高橋是清は、新規発行した国債を日銀に引き受けさせて得た財源で、積極財政を行ない、疲弊した農村などの窮状を救い短期間でデフレを脱却しました。 デフレ脱却後は、日銀に積み上がった国債の9割近くを市中で売却して消化しました。
この高橋財政は、ちょうどケインジアン型政策とマネタリスト型政策を合わせたものになっています。
従って、数十兆円の積極財政+同額の日銀買いオペでも高橋財政と同様の効果が期待できます。
上で見た歴代内閣や日銀の財政・金融政策では、デフレ脱却・景気回復に必要な政策の一部だけしか実施されなかったため、所期の目的を達成できなかったのでしょう。


 野田新首相は、財政健全化のため、増税路線を堅持するとしていますが、デフレ脱却せずに消費税などでの増税をおこなうのでは、橋本龍太郎内閣と同じ轍を踏むことは間違いありません。一段と酷いデフレとなり、景気は更に悪化し、雇用は不安定化し自殺者も増えるでしょう。
 高橋是清に倣い、先にデフレ脱却・景気回復を行えば、プライマリーバランス達成により、財政健全化はできるのです。



【追記2013.09.27】昭和恐慌期のドル円レート
今日コメントをいただいた山中雅和さまからご質問があった昭和恐慌時のドルベース物価を算出するベースとなるドル円レートを貼っておきます。(時間がなくてここまでしか対応できずスミマセン)

*1:企業売上は必ず誰かの所得 http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110828/1314515224

*2:日銀政策決定の本質 http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20101031

*3:企業売上は必ず誰かの所得 http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110828/1314515224