シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

日銀「国債直接引き受け」と「国債市中消化+買いオペ」は同じか

【要約】
・日銀「国債直接引き受け」と「国債市中消化+買いオペ」は一見するとよく似た取引です。
・政府・日銀・市中銀行・その他民間部門と4つに主体を分けた仕訳で、デフレ日本では日銀「国債直接引き受け」がどう優っているかが分かります。

昨晩2ch日銀板「日銀はなぜデフレ政策を堅持するのか■140」*1に出没して国債直接引き受けについて議論をしていました。
すると、『日銀「国債直接引き受け」と「国債市中消化+買いオペ」って一緒じゃないの、何が違うか分からない。』というカキコミが入りました。 この話は、以前興味を持って眺めていた岩本康志先生のブログの内容*2とかなり似ていたので、そのエントリー全体を引用してこの問題を考えてみましょう。なお全体が長いので、後で参照するために、[段落番号]を入れさせてもらいました。

[第一段落] 山本幸三衆議院議員のブログ(http://ameblo.jp/shugiin/entry-10903419769.html )で紹介されているが,5月25日に自民党での震災後の経済戦略に関する特命委員会に出席して,復興財源について議論する機会があった。そのとき,山本代議士から,復興国債を日銀が引き受けすることは市中で消化された復興国債を日銀が購入するよりも効果がある,という話が出た。私がそのような話を聞いたのはそのときがはじめてだったが,日銀の国債引き受けの方が貨幣が増えるという趣旨のようだった。その場では時間が限られていたので,私は「貨幣の増え方は同じである」ことだけ発言した。
 後で岩田規久男学習院大教授が,著書『経済復興』(筑摩書房刊,2011年)で,同様の主張をしているのを見た(39-42頁)。私の遭遇した事情から,山本代議士の考えが岩田教授と同じかどうかは確認できていないが,ここでは岩田教授の議論を検討するとともに,私の考え方をまとめておきたい。

[第二段落] なお,ここで検討する2つの政策は,レジームが違うといっていい大きな違いがある。日銀の国債引き受けは通常,財政の都合で決定される。日銀が市場で国債を買うことは通常,金融政策として決定される。政策決定のルールが違うと,いま同じことが起こっているように見えても,経済の反応が違ってくることがある。日銀の国債引き受けが危険とされるのもこの点にある。岩田教授の著書にもこの危険の言及はある(42-43頁)が,ここで検討したい岩田教授の議論にはこの要素は織り込まれていないので,私も同様に扱うことにする。政策が実行されたときの貨幣の増え方のみに注目する。また以下の説明は,岩田教授の趣旨を歪めない形で若干の修正を加えている。
 まず,政府は財政支出をおこない,その財源の国債を日銀が引き受ける場合を考えよう。財政支出は国庫から民間非銀行部門の預金口座に振り込まれ,民間非銀行部門の収入になるとする。民間銀行は増えた預金はとりあえず準備預金で保有するものとする(ここは後であらためて吟味する)。すると,政府,日銀を加えた4者の貸借対照表は以下のように動く(これを「状態A」と呼ぶ)。(借)で資産側の動き,(貸)で負債・資本側の動き,矢印で増減を示すことにする。

(状態A・日銀が国債を引き受ける)
政府 (貸)国債↑ 正味資産↓
日銀 (借)国債↑ (貸)準備↑
民間銀行 (借)準備↑ (貸)預金↑
民間非銀行(借)預金↑ (貸)正味資産↑

[第三段落] つぎに,国債は日銀が引き受けるのではなく,民間非銀行部門が購入することで消化される場合を考える。そして,日銀は民間銀行から国債を購入する(日銀の取引相手は基本的に政府と民間銀行であるから)。このときの4者の貸借対照表の動きは,

(状態B・国債は市場で消化され,日銀は市場で国債を購入する)
政府 (貸)国債↑ 正味資産↓
日銀 (借)国債↑ (貸)準備↑
民間銀行 (借)準備↑ 国債
民間非銀行(借)国債↑ (貸)正味資産↑
となる。

[第四段落] 政府・日銀の動きは,状態A(日銀の国債引き受け)と状態B(国債の市中消化と日銀の国債買いオペ)で同じである。日銀が国債を増やす分だけマネタリーベースが増えている。
 民間非銀行部門は状態Bでは国債を購入するため貨幣を減らしており,財政支出が収入になることの資産増は貨幣(銀行預金)増ではなく,国債増の形で現れている。民間部門全体では,国債保有額には変化はない。しかし,新規の国債が消化される主体と日銀が国債を購入する主体が違うため,民間銀行部門と非銀行部門国債保有額が違ってくる。そのため,状態A(国債引き受け)ではマネーストックは増えているが,状態B(国債買いオぺ)ではマネーストックは増えていない(注1)。
 岩田教授は,
「日銀の買いオペの場合に,民間の非銀行部門の貨幣保有額が増えるかどうかは,日銀の買いオペにより日銀当座預金の増えた民間銀行が,民間の非銀行部門への貸し出しを増やすか,あるいは,民間の非銀行部門から手形のような資産の購入を増やすかどうかに依存する。
 それに対して,国債の日銀引き受けの場合には,確実に,民間の非銀行部門の保有する貨幣が増えるため,貨幣が増えることによる需要拡大効果が発揮される。
 この意味で,国債の民間引き受けと日銀の国債買いオペの組み合わせよりも,国債の日銀引き受けのほうが,需要拡大効果は確実かつ大きいといえる。」(前掲書,41-42頁)
とのべている。

[第五段落] 通常の経済学では,岩田教授のようには考えない。
 ゼロ金利のときには,預金と国債は完全に代替的な資産になるので,民間部門は資産をどちらでもっても同じことになると考えるのが,日本は「流動性の罠」にあるという見解である。この見解をもとに,状態Aと状態Bの経済への影響は同じだ,ということもできる。しかし,今回はこの話は封印しておいてもよい。
 ゼロ金利でない場合には,預金と国債は別の資産になる。岩田教授の論が正しければ,状態Aと状態Bは違うから,政府が国債を発行しているときに金融緩和するならば,国債の買いオペという,世界中でおこなわれている通常の手段より,政府から引き受けた方が効果が大きいという話になる。普遍的な状況で考えられているので,これは日銀だけが該当するのではない。世界中の中央銀行は今まで(今でも)何をやっていたのだ,ということになる。
 しかし,通常の経済学の考え方からいくと,2つの政策はゼロ金利であってもなくても同じ帰結にいたる。
 状態Aと状態Bは,政策の効果を考える作業の途中段階の仮想的なものでしかない。むしろ経済学はここから始まる。人々の行動がいま観察されているものと同じだということが一般の議論では前提にされやすいのだが,政策の変化によって人々が行動を変えることまでも織り込んで政策の帰結を考えるのが,経済学の醍醐味だ。
 つまり,状態Aなり状態Bから,民間非銀行部門と民間銀行部門は自らが望ましい形に資産を組み替えるし,民間非銀行部門は正味資産増に応じて支出を変化させるだろう。岩田教授が状態Bで民間銀行の貸出の変化に言及しているのはその一部だが,全部ではない。2つの政策を正しく比較するためには,もう少し考慮に入れておかなければいけない部分がある。
 状態Bで政策が実行されたときには国債が市場で取引されているので,状態Bは民間銀行部門と民間非銀行部門が資産構成を調節した結果ということになる(そうでなければ,政府が勝手に個人の預金を国債に変えたり,日銀が勝手に民間銀行の準備預金を国債に変えたりする政策が実行されていることになるが,これはあり得ない)。状態Aでは,そのような民間の資産構成の調整行動がまだ考慮されていない。それを考慮したときに状態Aからどう変化するかを考える際には,状態Bが役に立つ。状態Bが意味するのは民間非銀行部門が正味資産増を国債でもちたいし,民間銀行部門国債を減らしたいということだ。したがって市場取引が起これば,状態Aからは民間非銀行部門国債を買い,民間銀行部門国債を売る。[2011年6月20日追記:上の2文で民間銀行部門を民間非銀行部門と誤記していたのを訂正しました]この取引で,2者の貸借対照表は,

民間銀行 (借)国債↓ (貸)預金↓
民間非銀行(借)国債↑ 預金↓

と変化する。状態Aにこれを付け加えると,状態Bと同じ形になる。つまり,日銀が国債を引き受けた場合で民間の国債保有の選択を考慮すれば,日銀が買いオペをする場合と同じことになる。
 その先には民間銀行の貸出がどう影響を受けるのかを考える作業が必要となるが,2つの政策はすでに同じ状態になっているので同じ道をたどるだろう(注2)。

[第六段落] 岩田教授の議論は,2つの政策の効果を比較するときに途中段階の比較になっており,その際に片方だけでしか考慮されていない要素がある。そこで違いが出たことをもって政策効果に違いがあるとするのは不適切である。考慮する要素は両者で同じにして比較すべきである。片方で国債市場での取引が考慮されているのであれば,もう一方でもそれを考慮に入れて,両者を比較すべきである。そうすれば,国債を日銀が直接引き受けた場合と国債を市中で消化して日銀が同時に買いオペする場合の貨幣(マネタリーベース,マネーストック,各主体の保有額)の増え方は,同じになる。

(注1) 現在の日本では銀行が大量の国債を買っている。国債を民間非銀行部門ではなく民間銀行部門が買えば,状態Aと同じになる。

(注2) 読者が一から考えるときには,行動変化を順番に考えていって,何が起こるのかを突き止めるのは混乱のもとになるのでお勧めしない。実際の経済学的な分析では,民間部門の行動変化のすべてを同時決定で考えることが多い。行動変化を逐次的に説明するのは,便宜上の理由からである。

 第四段落までは特にコメントしたい部分はありません。強いて言えば岩田教授の発言「日銀の買いオペの場合に,民間の非銀行部門の貨幣保有額が増えるかどうかは,日銀の買いオペにより日銀当座預金の増えた民間銀行が,民間の非銀行部門への貸し出しを増やすか,あるいは,民間の非銀行部門から手形のような資産の購入を増やすかどうかに依存する。」は日銀買いオペでは民間非銀行部門は「実質金利の壁」で貨幣保有額は増えにくいという点だけ指摘したいと思います。*3
 第五段落。「ゼロ金利のときには,預金と国債は完全に代替的な資産になるので,民間部門は資産をどちらでもっても同じことになると考える」 金利だけに着目したモデルだけしか考えなければそうかもしれません。 しかし、民間非銀行では大違い。 預金があれば大根かえますが、国債持っていても大根買えません。 流動性が現金・預金>国債ですもん。 ま、これは本題から関係ないのでこれくらいで。

国債の買いオペという,世界中でおこなわれている通常の手段より,政府から引き受けた方が効果が大きいという話になる。普遍的な状況で考えられているので,これは日銀だけが該当するのではない。世界中の中央銀行は今まで(今でも)何をやっていたのだ,ということになる。」 
そうではないですね。世界中を見回しても先進国で日本だけがデフレの罠の中にいます。 中央銀行で、日本だけが特別な手段を取らざるをえないのは日本がデフレだからで、それと他の中央銀行が作り出している低インフレと環境が違うものである以上、最適手段が異なるのはしかたがありません。 日本以外の中央銀行基本的に正しくやっています。

「状態Bで政策が実行されたときには国債が市場で取引されているので,状態Bは民間銀行部門と民間非銀行部門が資産構成を調節した結果ということになる(そうでなければ,政府が勝手に個人の預金を国債に変えたり,日銀が勝手に民間銀行の準備預金を国債に変えたりする政策が実行されていることになるが,これはあり得ない)。」
ここはちょっと文意が汲みにくいところです。 ただ、「勝手に個人の預金を国債に変え」るのはどこの市中銀行も普通にやっています。状態Bは買いオペが入っていますから、日銀が「国債を民間銀行の準備預金に変える」のは買いオペがあったということで日銀が強制したわけではないですね。
「状態Aでは,そのような民間の資産構成の調整行動がまだ考慮されていない。」
これが最も意味が不明です。状態Aは既に金融政策+財政政策として完結しています。 状態Bはバラバラにもとりうる政策「国債市中消化」と「買いオペ」を組み合わせて、状態Aに近い状態を思考実験でつくり出したものです。 勿論現実にもあってオカシイわけではないですね。
で、結局

民間銀行 (借)国債↓ (貸)預金↓
民間非銀行(借)国債↑ 預金↓

という取引を状態Aに無理やり付加しないと状態Bと一緒にならない訳です。
この取引って、「日銀直接引き受け」+財政出動(状態A)でせっかく使える資金が手元に入り、これから景気回復しようという段階で、民間非銀行に国債を買ってもらって預金を減らす取引です。 家計にしても企業にしてもこんなバカな取引しませんよ。 貰った預金は従業員給与や、投資や、家計なら好きなものを買って使ってしまいます。 国家強制でなければ、国債は買いません。国債を無理やり買わされた場合、景気回復デフレ脱却はあり得ません。
 岩本先生の思考回路に沿って言えば、民間非銀行が上の枠内の不利でやりそうもない取引をすれば、状態Aと状態Bとが等しい取引となる訳です。 これを普通の日本語で言えば、状態Aは状態Bに優る、ということです。

*1:http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/eco/1311582642/l50 この板は流れるのが早く、数日後は過去ログ入りです。 このネタが140×1000も議論されていることが日銀の異常さの象徴ではあります。

*2:http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/MYBLOG/yblog.html?fid=0&m=lc&sk=0&sv=%B0%FA%A4%AD%BC%F5%A4%B1 の下半分「国債引き受け国債買いオペの比較 」

*3:http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110727/1311770903  デフレ日本では国債直接引き受けが国債買いオペに優る理由