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デフレ日本では国債直接引き受けが国債買いオペに優る理由 

【要約】
・デフレ日本では国債買いオペでベースマネーを増やした場合、国債や海外資産の高騰を招くことが確実なのに、肝心の民間非金融部門へは資金が出て行きません。
・日銀による国債直接引き受けの場合には財政政策と並行して実施することで、海外資産の高騰を招かずに直接民間に資金を提供し、デフレを脱却することができます。
・一旦デフレを脱却し景気が回復すれば、「高橋財政」で実際行なわれたように、日銀で引き受けた国債は市中消化することも容易です。

先日のエントリーで昭和初期の高橋財政の分析から日銀による国債の直接引き受けで、白川・日銀総裁財務省が懸念を表明するような金利の急上昇などは起こらず、マイルドインフレ下、好景気となり、国債金利は下がったという実例について書きました。*1
今回は、デフレ日本で日銀が市中にお金を供給するのに、国債市中消化よりも国債直接引き受けが優るとする理由について述べたいと思います。

シナリオ(A)低インフレ期での国債買いオペ
 日本以外の先進国では現在低インフレ状態となっています。 このような環境であれば、日銀が国債市中銀行から買えば市中銀行の日銀当座預金が増え、民間(非金融部門)は借入れを増やすことができます。 金融緩和で期待される状況というわけです。
シナリオ(B)デフレ期での国債買いオペ 
ご存知の通り、日本は’97年頃からデフレとなっています。 GDPデフレータではその後今日まで一貫してデフレです。このような環境下、日銀が国債市中銀行から買ったとしても、市中銀行の日銀当座預金は増えますが、デフレつまりインフレ率が負ですから、実質金利(=名目金利−インフレ率)が高くなり、この高い金利を負担してでも採算の取れる事業(あるいは企業)はわずかになってしまいます。 結局銀行にはカネが溢れるが、実質金利の壁に阻まれ市中の中小企業などの資金欠乏は続き、市中銀行での余剰資金は国債に還流するか、海外の不動産や商品などに投資され、これらの高騰を引き起こします。

シナリオ(C)日銀による国債直接引き受け
これに対して日銀が国債を直接引き受けた場合には市中銀行ではなく、政府部門が一旦お金を受け取った後、これを原資として、減税・補助金などの財政政策を通じて民間(非金融部門)にお金を供給することができます。 実質金利の壁がない、これが国債の直接引き受けの最大の特長だと思います。
シナリオ(D)デフレ脱却後の国債市中消化(売りオペ)
昭和初期の高橋財政期では、国債発行高は高橋財政が始まった年が最大で、翌年以降発行高が減少しています(下図)。 これは一旦デフレを脱却してしまえば、最初のシナリオ(A)のように、市中銀行を経由して民間に資金は提供できますから、継続的に日銀が国債を直接引き受ける必要は減少し、景気動向を見ながら(過熱しないように)保有していた国債を市中消化することが可能になる、という訳です。
高橋財政でも、国債の市中消化を進めた事実から、「国債の日銀直接引き受けは必要がなかった」という論陣を張る向きもあるようですが、国債の日銀直接引き受け、あるいは政府紙幣発行といった手段を避けて、「デフレ下の実質金利の壁」をどうやって乗り越えようというのでしょうか。 筆者は高橋財政期にはシナリオ(C)→シナリオ(D)という必須の金融・財政政策が、不況期→その後の好況期で連続して実施されたのだと理解しています。

高橋財政期の国債発行高推移高橋財政期にはデフレ脱却により国債発行高は減少していった。*2

【関連記事】
日銀による国債直接引受でなにが起きるか-高橋財政期の分析
高橋是清自身が語った高橋財政
昭和十年七月二十七日東京朝日新聞に掲載された高橋是清蔵相による高橋財政の自己評価

*1:http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110717/1310880848  日銀による国債直接引受でなにが起きるか-高橋財政期の分析-

*2:http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2002/pdf/cs20021205.pdf 「日本国債のリスクプレミアム」(富田)の図3を引用