シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

日銀による国債直接引受でなにが起きるか-高橋財政期の分析-

【要約】
・日銀・白川総裁は、日銀による国債直接引き受けに対し否定的見解を繰り返しています。
・昭和恐慌時のデフレ不況に際しては高橋是清は日銀による国債直接引き受けを実施しました。
・その結果、マイルドインフレ下の好況が訪れました。 国債金利は上がるどころか低下していきました。


現在の白川日銀総裁は、日銀による国債直接引き受けに対し例えば下の報道のように繰り返し否定的な見解を示しています。

日銀総裁国債引き受け「将来の不確実性増し金利上昇」 衆院
2011/7/13 14:20
 日銀の白川方明総裁は13日、衆院財務金融委員会に出席し、日銀による国債の直接引き受けについて「ただちにインフレが起こるわけではないが、それがマネタイズと見られると将来に対する不確実性が増す」との認識を改めて示した。そのうえで「長期金利が上がり、国債の発行がうまくいかなくなる」と指摘した。
 自民党山本幸三氏の質問に答えた。〔日経QUICKニュース〕

では昭和恐慌後の日銀による国債直接引き受け前後には何が起こっていたのでしょうか。
昭和4年に成立した浜口雄幸内閣の蔵相井上準之助は、極端なまでの緊縮財政論者で、当時の列強が金本位制に復帰していることなどから、日本も金本位制に復帰すべしとして昭和5年1月に金解禁(金本位制復帰)を強行します。
これにより極端な円高となり、日本国内の通貨量は正貨(金)量に拘束されるため、極端なデフレとなりました。すでにに始まっていた世界恐慌の影響もあって、日本経済は昭和恐慌となります。 
翌年浜口内閣は倒れ、昭和6年12月に成立した犬養内閣の蔵相に就任した高橋是清は、まず金輸出再禁止を実施。昭和7年11月には日銀による国債直接引き受けを実施します。 金本位制離脱と日銀国債引き受けという2つの金融緩和策により、デフレは終息、マイルドインフレ下に好景気となったいわゆる「高橋財政」の時代となりました。
 
(色つき部分が高橋財政期)
問題は、この高橋財政期の前後では国債金利はどう動いたかです。 現代の日銀総裁・白川氏は、「長期金利が上がり、国債の発行がうまくいかなくなる」としています。

 実際に日銀の国債直接引き受けが始まる昭和7年11月に日本国債は直近の金利ピーク11.77%をつけます。しかし直接引き受けが始まると、白川総裁の指摘とは異なり、国債金利は下がっていきます。景気回復局面になったにも関わらず、です。この金利低下傾向は昭和10年まで続きました。 この年、高橋是清は、次のように語っています。

「昭和7年度以来毎年相当巨額の公債の発行にも拘らず、今日までの所幸いにその運用は理想的に行われ、いまだ公債に伴う実害を発生して居らぬ。かえって金利の低下や景気回復に資せるところが少なくない。世間の一部にはこの効果に着目し、公債は何ほど発行しても差し支えなきものであるかのごとき、漠然たる楽観説を懐いて居る者もあり、また今日政府の採って居る公債政策ごときはいまだ不十分であって、どしどし公債を増発して国家の経費を大いに膨張せしむべしと説く者もあるようである。しかしながら公債の過剰発行による財政、経済の破綻に付いては欧州大戦後多数の国家にその実例の存する所であって、公債は何ほど発行しても差し支えなしと論ずるがごときは、この最近の各国の高価なる経験を無視するものである。」(昭和7年7月27日付、高橋是清、東京朝日)*1

昭和4年の張作霖爆殺事件など以来、軍部特に関東軍満州地方などでの軍備拡大に注力するようになりました。 井上準之助によるデフレ政策からの転換策としては日銀の国債直接引き受けは大変有効だった訳ですが、景気が好転し、今で言えばデフレギャップがなくなった状態でも軍関係者を中心に、国債を大量発行し、軍費をまかなって差し支えない、という論者が増えたため、高橋是清は、上のような演説でその空気に釘をさしたものと思われます。
 しかし、青年将校らはこれを面白く思わず、翌年2月26日「昭和維新断行・尊皇討奸」を掲げて高橋蔵相らを殺害しました(二・二六事件)。これにより高橋財政期は終焉を迎え、その後任の財政運営では軍部迎合的に国債を乱発して、国債金利急騰を招いたのでした。

 こうして昭和の経済史を振り返ってみると、白川日銀総裁の発言には首をひねらざるを得ません。 白川総裁に限らず速水・福井総裁時代にも、経済運営は常に引き締め気味の井上準之助型でしたので、官僚の無謬主義からすると、国債直接引き受けで金利が下がる事実を認めることは自らの金融政策の否定につながるとの認識かもしれません。 また多くの経済学者もどういう訳か、高橋是清の実施した日銀国債直接引き受けを、高橋暗殺後の財政規律の緩みや国債金利急騰に結びつけて語りたいようですが、これは事実の歪曲に過ぎません。デフレが日銀による国債直接引き受けで一気に解消することは白川総裁の杞憂とは関係なく、歴史的にもはっきりしています。 

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[参考文献]
日本国債のリスクプレミアム」:富田俊基、知的生産創造 2002年12月号pp44
両大戦間期の日本における恐慌と政策対応― 金融システム問題と世界恐慌への対応を中心に ―」:鎮目雅人 日銀レビュー2009年4月 2009-J-1

*1:http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110728/1311943541 http://homepage3.nifty.com/kazumasa-oguro/1935-0727-korekiyo.pdf 実際の紙面;日銀国債引受け後に金利が低下したことなどが述べられている