シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

ヴェルグルの奇跡再び

現代日本のようなデフレ世界では、金利は負になれないという制約があるために実質金利が高止まりし、伝統的な金利調節による金融政策が無効になるという問題が発生します。
日銀はゼロ金利かそれに近い状態をかなり長期間続けていますが、デフレ下では実質金利が高いことから民間企業への融資は滞り、家計では現金が選好され、デフレを自己強化しています。
 このような状態は、紙幣の増刷で解消することが王道です。しかし、日銀のような頑迷なデフレ堅持中央銀行を持った国民としては近い将来の紙幣増刷に対し、そう大きな期待が持てないことも事実です。
 こうした状況に対し、通常の金融政策とは異なり「減価する紙幣」でデフレ状況を脱却するアプローチも知られています。
 大恐慌の真っただ中にあった1932年から1933年にかけて、オーストリアチロル州クーフシュタイン郡のヴェルグル(独:Wörgl)町では、当時の町長ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガーにより、シルビオ・ゲゼルが提案した自由貨幣(減価する貨幣)を地域通貨として流通させ、デフレ下の地域経済の建てなおしに成功した事例があり、ヴェルグル駅から市内の目抜き通りには、市民や観光客に対してこの歴史を紹介するモニュメントが作成されている(「ヴェルグルの奇跡」と呼ばれています)。
実際の自由紙幣の使い方としては、まず町長が地域の貯蓄銀行から32000オーストリア・シリングを借り入れ、それをそのまま預金として預け、それを担保として32000オーストリア・シリングに相当する「労働証明書」という地域通貨を発行しました。
この労働証明書は、1シリング、5シリング、10シリングの三種類がありました。そして、町が道路整備などの緊急失業者対策事業を起こし、失業者に職を与え、その労働の対価として「労働証明書」という紙幣を与えました。  労働証明書は、月初めにその額面の1%のスタンプ(印紙)を貼らないと使えない仕組みになっていました。 つまり、言い換えれば月初めごとにその額面の価値の1%を失ってゆくのです。 ですから手元にずっと持っていてもそれだけ損するため、誰もができるだけ早くこのお金を使おうとしました。 この「減価するお金」が消費を促進することになり、経済を活性化させたといわれています。

さて、このヴェルグルの奇跡の話ですが、現代日本で活用してみたくなるアプローチではあります。 
ただ、現代日本にはミヒャエル・ウンターグッゲンベルガー町長のように私財を投じて町民を助けようとする篤志家はそう多いとは思えません。
それどころか、日本の大半の地方自治体は過去の失政のツケが溜まって、こうした試みに資金が出せそうにもありません。
そこで、このヴェルグルの奇跡のアプローチを少々改変した「商品券型ヴェルグルの奇跡」を考えてみました。


1.まず地方自治体政府が、その地方自治体内で通用可能な、12,000円の商品券(以下ヴェルグル券と呼ぶ)を住民に10,000円で販売します。
 この段階の下準備として、ヴェルグル券で自社製品を12,000円分販売してくれる企業を募る必要があります。 一定数以上の企業がこの取組に参加した場合、販売不振に悩む企業と安価で商品を買いたい住民の双方に利益があります。 
2.このヴェルグル券も、オーストリアのヴェルグルの労働証明書同様に減価する仕組みとします。例えば月初めごとに500円の収入印紙を貼らなければ10,000円の価値しかない(10,000円の日銀券とは交換可能)ことにします。 一方500円の収入印紙を貼れば12,000円として通用します。 
3.この例の場合ですと、印紙を全て貼った4ヶ月を超えると、とりあえずこのヴェルグル券の寿命で、この古いヴェルグル券は+500円で、印紙の貼られていない新品の12,000円ヴェルグル券と交換するか、10,000円の日銀券と交換できます。
このようにすることで金利の非負制約のもとでも、この商品券(実質的には紙幣)については月利マイナス4%以上という大幅なマイナス金利が実現され、ヴェルグル券を持った人は直ちに別の人の商品と交換するインセンティブが生まれますので、ヴェルグル券を発行した地方自治体のみはデフレから脱却できる、という寸法です。
 毎月ヴェルグル券に貼られる収入印紙は、地方自治体の直接収入となります。
 なお、このヴェルグル券を「信じない」人は、これを地方政府に持ち込めば10,000円で引きとって貰えます。この際の引き取りの原資は言うまでもなく、当初住民から受け取った10,000円です。 またこの地域の金券ショップではヴェルグル券を通常の商品券同様、自由な値付けで売買できるものとし、流動性を高めることとします。 
 その地域にある金券ショップでの売買価格は手数料を除けば、10,000円以上かつ12,000未満であることは間違いないでしょう。 実際にやってみれば分かる話ではありますが、仮に11,000円で取引されるとすれば、住民に販売した価格10,000円との差額1,000円は地方政府が創造するシニョリッジ(通貨発行権)の価値ということになるのでしょうか。
     
  発行直後のヴェルグル券                 発行1ヶ月後の収入印紙が1枚貼られたヴェルグル券
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