シェイブテイル日記2

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CPIとGDPデフレータの違い

以前から気になっていたことがあります。
物価を示す指標にはいくつかありますが、「消費者物価指数(CPI)には上方バイアスがあり、GDPデフレータには下方バイアスがある。」といった説明を見聞きするのですが、その説明がちょっとアヤシイのでは?、という疑問です。

 日銀から出ているある小論文では、CPIはラスパイレス指数GDPデフレータパーシェ指数であることが両者の乖離の重要な原因である、とされています。
下の表は、この論文に出てくる物価下落の例です。

この例では、物価指数を構成する商品は食品とパソコンの二つの財だけからなる、と単純化されています。
そして、食品は価格変動なし、パソコンは毎年50%価格が下落する、というモデルです。
ラスパイレス指数であるCPIの場合、「基準年」時点の財の数量ウエイトがそのまま持続する、という前提で物価が計算されるのに対し、パーシェ指数であるGDPデフレータの場合、比較時点の数量ウエイトで加重平均して物価が計算される、という違いがあるというものです。
この例の場合、GDPデフレータは、CPIよりも下落率が大きく、日銀小論文では「GDPデフレータには下方バイアスがある。」という結論を導いています。

ところが、です。
この例の初期条件を変えてみると、意外な結果になります。

こんどの例では基準年の食品の数量ウエイトはパソコンの数量ウエイトの2倍、パソコンの価格下落率は年間20%としました。(この初期値の方が、現実に近いですよね。)すると…。

あら不思議。 両者に差が無くなっているではありませんか。
結局、日銀の小論文の例って、GDPデフレータがCPIよりも極端に下に出る例を出しただけ?という疑問が残りました。

現実の世の中を考えれば、百均ショップが繁盛していることを見ても分かるように、今の日本の庶民は、デフレで給料が下がったり、雇用が脅かされたりする中、一円でも安く同じ機能・便益を実現出来る商品を探して買っているわけです。
 それにも関わらず、CPIの算出では、基準年と同じものを買ったと仮定しています。 
どうやら日銀論文では、GDPデフレータにも下方バイアスがあって、日銀が物価指標としているCPIが正しいのだ、ということが言いたいようですが、現実世界を考えれば、ラスパイレスだ、パーシェだといった違いよりも、CPIは、デフレ下にある現実の人間の行動が反映されていない指標であることが問題であるように思えます。

【追記】
少なくともデフレ環境下ではCPIとGDPデフレータの最大の違いは「代替バイアスを反映しない/する」の違いだと考えられます。
詳しくはこちらの記事に記載しています。

日銀の結論は、逆に「CPIは正しい指標で、GDPデフレータは下方バイアスのある正しくない指標」としているようですが、もし世界で唯一日銀だけが誤った指標(CPI)に基づいて、物価を下げ続けていると仮定すると、日本が物価水準が世界で最も低すぎるようにコントロールされていることにある意味では納得がいきます。

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