シェイブテイル日記2

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国民がきちんと知らされていない消費税増税使途

突然ですが、もしあなたがサラリーマンでめでたく1万円昇給し、奥さんがそれをそっくりそのまま旦那の小遣いにすると言ったとしましょう。
ところが、実際には次の小遣いが1万円増えるどころか実際には減っていたら、奥さんはあなたから嘘つきとみなされてしまうでしょう。

その時奥さんが、「え? 私はATMで給料を引き落とした時、ちゃんと昇給した1万円シルシをつけて、あなたに渡したでしょう。」と言ったとすればそれであなたは納得しますか?

これとよく似た状況が今の消費税増税で生じていますが、マスコミも世間もあまり騒いでいないようです。

政府説明によれば、消費税の増税分は全て社会保障費に充てられるということです。

 税金が国庫に入るまでにタイムラグがあるため、2014年度の消費税収は5兆円の増加にとどまる。14年度予算では5兆円のうち、2兆9500億円は基礎年金の国庫負担に充て、赤字国債でまかなっていた社会保障費の一部を補うために1兆3000億円を使う。5000億円は待機児童の解消など、社会保障をこれまで以上に充実させるために支出する。
    日経新聞27日朝刊 「増税、なぜ今? 年金や医療の財源に」

これを図示すると図表1左のようになります。
子育て・医療介護充実に使われる1.3兆円は政府の説明通り、増税分が社会保障費に充てられたと言っていいでしょう。


図表1 消費税増税分の使途 
(左)政府説明による増税使途 (右)報道などを総合した試算による増税使途

ただ、増税部分を年金国庫負担に約3兆円に使う、とはどういう意味でしょう。
政府の説明では増税分のお金にはまるでシルシでも付いているかのように、社会保障費に使われる、ということですが、実際には子育て・医療介護充実以外で社会保障費が充実されるわけでもなく、これは冒頭の嘘つき奥さんが昇給分1万円を小遣いに充てるといいながら小遣いを減らした話とそっくりですね。

年間1兆円ほどの社会保障費自然増に充てられているのでは、というのは誤解です。
なぜなら増税しようがするまいが、どちらでも社会保障費自然増はあり(増税・非増税で差がなく)、「消費税増税の使途」ではありません。

現実には社会保障費で増えたのは上記の子育て・医療介護充実のみです。
ということは年金国庫負担と記載された部分では社会保障費として増えた費目は何もないことになります。

で、現実に新年度で増加する費目を書き加えたのが図表1右です。

ひとつは国家公務員などの給与大幅増に使われます。 

 国家公務員給与の特例減額、14年度は延長せず  日本経済新聞 2014年11月7日

これは東日本大震災の復興財源を捻出するため、国家公務員給与を平均7.8%減額していた特例措置を2014年度以降は廃止するというお話です。 民間給与が400万程度で、それが更にデフレで年々下がっています。

福利厚生まで入れればほぼ2倍の国家公務員給与を更に一挙に7.8%上げようというのですから、お手盛りもいいところですね。*1

またもうひとつは輸出戻し税です。

 戻し税 −どこか腑に落ちない輸出企業への消費税の還付 
 President Online 2013年2月4日号

これは輸出戻し税という制度の存在自身は致し方ない面はあるものの、消費税率が上がれば上がるほど輸出企業への還付が増えます。現在の5%税率で3兆円の戻し税とすれば、8%なら4.8兆円、10%なら6兆円もの金額が社会保障費とは関係がない輸出企業の懐に入ります。 消費税が上がれば上がるほど輸出企業の懐が潤うのですから、輸出企業トップが消費税増税に熱心なのも肯けます。

トヨタ自動車など輸出比率が高い企業に至っては、消費税は制度開始以来、実質まだ1円も払ったことがなく、常に数千億円もらう立場などといわれています。 

いずれにしましても、これら2つの使途、公務員給与と輸出戻し税を、「社会保障費に充てる」と言うのはいかがなものでしょうか。

もうひとつ、消費税増税分を国債費に充てていることも報じられています。

これもまた「国庫負担」の話と同じく、増税分を社会保障費に充てるという約束に反していますね。

その上、増税して得られた歳入をいきなり国債費に充てるならば、国債が民間を循環するマネーの裏付けになっているのですから、増税分を民間マネーを直接減らすために使うことにもなります。
家計や企業が折角稼いだマネーが消費税として国に支払われるところまではまだ良いとしても、その使途の一部がマネーを無に戻すこと、というのはいかがなものでしょう。

デフレ脱却に必要なのは民間に回るマネーを増やすことです。それとはまるで逆の目的に私達の消費税の一部が使われてるということにもなります。

個人的には消費税そのものに対して必ずしも反対はしませんが、新聞報道内容などをみると、本当の使途を国民に知ってもらってその是非を問うという民主主義的手順が踏まれているのか、極めて疑問です。

【3月28日22:30追記】
「全額社会保障費に充てていると言われる消費税の一定割合は輸出戻し税となる」と書きましたことについて、ブコメ欄で「輸出戻し税が各国ともある」という指摘をされる向きがいらっしゃいます。

本文中にも「輸出戻し税という制度の存在自身は致し方ない面はあるものの」と書いたように、輸出戻し税が各国ともあることを踏まえて書いています。

いずれにしても増税分の一部が輸出戻し税として自動的に輸出企業に渡ることは事実ですので、全額社会保障費に使うという表現はやはりミスリーディングではないでしょうか。

例えば本文中に書いたように、トヨタが消費税は1円も払わず貰うだけ、という話に対して「法律を踏まえれば当然の結果」という考え方もあるでしょう。
ただ、安倍首相以下「消費税は全額社会保障費に」という表現をした時、その「法律を踏まえれば当然の結果」が含まれていると知る人が一体何割いるのでしょうか。

*1:地方を含めた全ての公務員などで何兆円総所得金額が増えるかの試算情報がありませんので、図表1では地方公務員などの給与にも同じく7.8%増額が適用されるとしての概算値1.5兆円としました。これは正確性には欠けている試算と思われます。