バーナンキ氏の示唆に逆らうアベノミクスでデフレ脱却は可能か
今日の報道によれば、日銀は8日までの政策決定会合で現状維持を決定する見込みと報じられてます。
日銀は現状維持へ、年度内の緩和期待は後退−来年4−6月主流に
ブルームバーグ 2013年8月7日
また、財政政策面では政府が2014年度予算の概算要求基準で公共事業など裁量的経費の10%カットするよう求める方針と伝えられています。
赤字削減2年で8兆円 中期財政計画、新規国債枠43兆円
概算要求基準、公共事業など10%減 「消費増税」判断後に修正
日経新聞 2013年8月7日夕刊
鳴り物入りで登場したアベノミクスの三本の矢でしたが、蓋を開けてみると、金融政策一本槍に近い状況となりつつあります。
これに対し、2003年5月に来日したベン・バーナンキFRB理事(当時)は日本金融学会に先立って講演し、金融財政政策の協力の効果を説いています。
(Some Thoughts on Monetary Policy in Japan Remarks by Governor Ben S. Bernanke Before the Japan Society of Monetary Economics, Tokyo, Japan May 31, 2003)
講演のハイライト部分を拙訳でみてみましょう。
日本での継続的価格下落という問題への特効薬はありませんが、いくつもの政策が単独もしくは併用で試す価値があります。
しかし、かなり直接的かつ実際的アプローチとして明確(かつ一時的)な金融当局と財政当局の協力があります。この戦略が有望であり、かつ、金融政策あるいは財政政策がバラバラに実施された場合には成功しないとしても、協力すれば成功するだろうという点を説明します。
現在の日本では消費需要と投資需要は大変抑制されており、資源は十分に活用されていません。
通常、中央銀行はこうした事態には短期名目金利の引き下げで対応しますが、現在それはほぼゼロです。
それ以外にも中央銀行が単独で取りうる戦略は存在します。例えば、期間プレミアムや流動性プレミアムの低下を狙って代替資産を購入するとか、マネタリーベースを拡大するとアナウンスするか公約することで将来のインフレ期待に働きかけるといったことです。日本銀行はこれらの方向性に少し踏み出しましたが、こうした金融政策の定量的影響の見極めが困難であるとか、金融政策の伝達経路が目詰りしているとかいった理由付けで政策実施を渋っているところがありました。
皮肉なことに、日銀がこの海図のない航海に、目に見えて渋ることで非伝統的な政策の心理的効果を減弱してしまっているようです。(中略)
ここで私は日本の金融当局と財政当局が協力することで、それぞれの政策担当者が直面する課題の解決を促進することを論じましょう。
例えば、家計や企業への減税の原資が、明示的に日銀による政府債の購入による場合を考えてみましょう。
この場合、減税は実質的に貨幣創造によりファイナンスされていることになります。
それに加えて、日銀がマネーストック増加の全てまたは大半を恒久化することで、物価水準目標を通じてリフレーション政策を実現すると公約するとしましょう。このプランでは、日銀のバランスシートはボンドコンバージョン*1により毀損から保護され、また政府の巨額債務への懸念は、政府債務を市中銀行に代わって日銀が購入することで緩和されることになります。
家計と企業は、日銀が減税額に相当する政府債務を購入することにより、現在または将来の増税による債務返済負担が生じないことを理解し、減税分を貯蓄ではなく消費に回そうとするでしょう。
要するに、金融・財政政策一体化により、家計部門の名目資産が増加し、それが名目消費、ひいては物価を上昇させるのです。(中略)
日本の政府財政が乏しいのに、減税を勧めることは無責任でしょうか。実はその反対に、財政的視点からみれば、この戦略が債務GDP比を下げることにより財政安定化が図られます。 日銀による政府債務購入では名目政府債務は一定に留まるのに対し、名目支出増加により名目GDPが増大します。
実際のところ、日本の財政難を和らげるのに、名目GDPの健全な成長とそれに伴う税収増がもっとも効果が高いと思われます。
バーナンキ氏は、金融・財政政策が相乗効果を発揮することで、単独では得られない効果によりデフレ脱却に資すること、財政政策(減税)の財源を明示的に貨幣創造でファイナンスすることで、家計・企業の消費を刺激することを説いています。この政策ミックスでは、財政健全性指標である政府債務対名目GDP比に対し、分子を小さく、分母を大きくすることでもっとも効果を発揮する、としています。
この講演のほぼ1ヶ月前にもバーナンキは自民党の山本幸三議員に対し「国債買い入れについては賛成だ。日本の抱える巨額の財政赤字をマネタイズすれば金利低下につながるし、予算上の制約も緩和され、減税なども可能となる。」と財政ファイナンスを積極推奨する姿勢を見せています。
バーナンキ氏が推奨した方法は高橋是清が実際にデフレを脱却した時と同じ金融・財政政策の同時発動です。
これに対し、昨今の政府の施策は金融政策は当面の手札を晒してしまっていて、今後のサプライズは消費税増税決定といった財政引き締めだけという状態になりつつあります。 第一の矢、金融政策は緩和的だが、緊縮財政に消費税増税と、第二の矢が逆向きについたような昨今のアベノミクスで本当にデフレ脱却はできるのでしょうか。