シェイブテイル日記2

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日本の「物価安定」は先進的、(あるいはせめて普通)なのか

【要約】
・日本の物価水準は30年前と同じになりました。
・日本と日本以外の物価安定国の30年間の物価変動を比べてみました。

 日本で物価が上がらなくなってもう随分経ちました。 
日本の物価指標GDPデフレータがピークだったのは、1994年のことでしたから、もう17年ほどデフレかそれに近い状態が続いています。

日本の物価  GDPデフレータ推移 日本の物価は30年前と同じに戻った












現物価水準が在と同じだった頃といえば、1981年。 もう30年も前のことです。この間、物価が安定していると言われている他の先進国の物価はその間にどうなったのでしょうか。IMF Economic Outlook 2011April版で調べてみました。*1
この間の物価上昇率のランキングは比較可能な140カ国中、日本は下から1番目(最下位)です。以下、物価上昇率下位から順に、2位シンガポール、そしてスイス、オランダ、ドイツ、オーストリア、ベルギー、米国、カナダ、フランスの順です。フランスで、物価上昇率ランキング下から17位です。(この間に、ベリーズエクアドルバーレーンなどの非先進低物価上昇率国も挟まっています)

この30年前の物価水準を100とすると、日本は勿論100に戻ったところです。
しかし、物価上昇率が日本に次いで低いシンガポールでさえ、物価は1.5倍にもなっています。
もう一度書きますが、これらの国は世界でも有数の低物価上昇率国だけでの比較です。
日本以外に、物価上昇率がこれほど極端に低い国はひとつもないですし、そもそも日本がデフレに陥っていなかった、1980年から1994年の間でさえ、物価上昇の傾きは緩やかであり、日本はこれらの国々の中でも物価上昇率最低グループだったこともわかります。

 日銀・白川総裁は自らの「金融政策の目的が物価の安定だけでなく経済の健全な発展としていることなど、日銀法の先見性を訴え、インフレ目標を採用していない日銀の政策運営は「より進化した枠組み」と述べたと報道されています*2が、今日のふたつのエントリーで過去30年のデータから見る限り、日銀の主張する「先見的な、より進化した枠組み」なるものを真似ようというような中央銀行は日本のほかにはどこにも現れていないようです。
デフレになって経済的には悪いことだらけで、良いことは何一つないのに、意図的にそれを狙う日銀*3。 

 では仮に、今短期間で日本の物価が80%騰がるほど日銀がマネーを供給したとしましょう。その意味するところはこのグラフのドイツ並の物価上昇率になるということです。
日銀から民間(非金融部門)には直接にはマネーを流せませんから、財政出動との組み合わせで実現します。*4

(財源)日銀→(??)→政府→(財政出動)→民間(非金融部門)

この図式は、(??)の部分以外は通常目にするスキームですね。
そしてこの(??)に入る手段としては次のような手段が考えられます。
1)政府紙幣数十兆円札(電子的にでも一緒)を日銀で両替してもらう
2)国債を発行して日銀に引き受けてもらう
3)一旦政府→日銀→市中ルートで市中消化した国債を、買いオペで日銀に戻す
どれでも効果は似たように想像されますが、一見よくありそうな3)は国債を一旦市中に流す分、経済全体への影響が読みにくいですね。 1)か2)なら同じ政府部門内で、市場への直接的影響はなし。

 その間起こりそうなことといえば、全ての物価の上昇、景気好転、雇用の逼迫、給与は年収400万の人なら短期間に700万程度に上昇。大幅な円安、株価や資産価格の上昇、下級財から上級財への需要シフト(=お昼は買い弁を止めて、レストランでランチ)。 婚姻率上昇、少子化ストップ。税収大幅増。国債残高減、年金制度安定、医療費財源安定、国民のQOL(生活の質)向上、 自殺率低下。皆が笑顔(^^) いやぁバラ色ですね!
 蛇足ですが、「物価が上がっても、自分の給料だけは騰がる気がしない。」とお思いのあなた。
そんなことはあり得ません。なぜかといえば、物の売上は、全てが誰かの所得になっている以上、全ての物品の価格が騰がる中、あなたの給料だけを選択的に上げないなんて技は誰にもできるものではありません。*5
 もひとつ蛇足で、「経済にフリーランチなし。」って詭弁の大家、池田信夫氏あたりに吹きこまれ、そうかなー、なんて思っている善良なあなた。 マイルドインフレの財源は日銀です。なぜデフレ日本では日銀のマネーがフリーランチでないかといえば、日銀が間違った指標CPI=0%を維持するため、民間から吸い上げたマネーを民間が返してもらうのだから、それは当然の話でしょう。

  
 でもひとつだけ大変困ったことがあるようです。 
それはデフレ政策を続けてきた日銀と増税しか策がなかった財務省の面子が潰れてしまうこと。

【関連記事】日銀による世界史上最長のデフレ
   世界一優秀な中央銀行はどこか

*1:IMF Economic Outlook 2011April版 操作は簡単。一度使ってみると面白い結果が得られるかもしれませんよ。 http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2011/01/weodata/index.aspx

*2:http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920009&sid=aFBNgrhjyW3A

*3:世界一中央銀行の能力が高い国はどこか? http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110122/1296336427

*4:日銀の買いオペだけでもマネーを民間(金融部門)にはマネーを供給できますが、この手段はデフレ下では大して意味がありません。「量的金融緩和策」が微妙な効き方だったのはこのせいでしょう。 http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110727/1311770903

*5:モノの値段の本質とお金の本質 http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110724/1311462100 

日本の物価は安定しているのかそれとも世界最低か

【要約】
・日本の物価を消費者物価指数でみると、97年以降0%で大変安定しています。
・しかしこの年以降、日本の経済は下げ足を早めました。
・日本の物価変動率は世界最低で中期的にマイナスですが、他の全ての国は中期的に物価上昇率はプラスです。
・日銀が意図的に消費者物価指数を0%に押さえ込んでいることが日本経済の諸悪の根源となっています。

ある人がブログで日本の物価上昇率を見て、「近年の日本の物価はインフレでもデフレでもない状態になっている」と書いていました。
[世] 日本のインフレ率の推移(1980〜2011年)
日本の消費者物価指数推移

確かに’97年以降消費者物価指数(CPI)で見た物価は0±1%にコントロールされています。
CPIを0%前後にすることが国の政策の目的のひとつだとすれば、この国は大変うまくいっていることになります。

それなのに、なぜか失業率は「物価が安定した」97年以降、4%台以上で高止まりしています。*1
この97年以降、可処分所得は減り続け、書籍数・売上もピークアウト、外食の売上もピークアウトしました。*2
スーパー売上高もそうですし、バブルにピークをつけた後、「物価が安定し始めた」97年以降百貨店売上高は急落を始めました。
日本の自殺者も97年以降高止まりし、精神疾患もこの年から急増しています。*3

そしてCPI=0%前後で安定しているはずの物価変動率は、なぜか世界最下位なのです。*4
右の物価変動率のランキング一覧表をずーーーっとスクロールしていくと、その一番下、183番目に、我が日本があります。

 なお、日本の物価は外的要因から低くなってしまっているのではなく、日銀がしっかりコントロールしていることは統計的な事実が示しています。*5

 ではなぜ「消費者物価指数前年比0%」が、中央銀行が目指すべきでない低すぎる異常値なのかと言えば、この消費者物価指数が、過去のある時点と同じものを買ったとしたらいくらかかるか、という仮定に基づき集計される指数であるため、日本のようなデフレ状態にあっては「過去のある時点と同じものを買」おうにも、当時より可処分所得が減っているため、より安いものを買わざるを得ないという点を反映できない欠陥指数だからです。*6

これら一連の事実から言えることは、物価を日本ほど低く抑え込まれている国はなく、日銀に物価を低く押さえ込まれることで、所得が減り、景気が悪くなり、うつ病や自殺者が増えるということです。
日銀が消費者物価指数を0%という異常値にコントロールしていることで日本国民は大変な被害を被っているという事実をおわかりいただけたでしょうか。
日本が物価上昇率世界最低ということはなぜかテレビや新聞では報道されませんが、右の図のように調べれば誰にでもわかる厳然たる事実です。






日本はもっと下↓
日本はもっと下↓
ずーっと下↓↓
えっ、どこよ?




更に下↓↓↓


















物価変動率ランキング   
 日本はダントツで最下位→

【関連記事というかこのエントリーの続き】
日本の「物価安定」は先進的、(あるいはせめて普通)なのか 

*1:世界経済のネタ帳 日本の失業率推移 http://ecodb.net/country/JP/imf_persons.html

*2:デフレ下での消費税アップ効果  http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110720

*3:現代日本でなぜ精神疾患が増えているのか http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110709/1310166936

*4:GDPデフレータでみた物価変動率 http://ecodb.net/ranking/imf_ngdp_d.html 

*5:世界一中央銀行の能力が高い国はどこか? http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110122/1296336427 

*6:外食産業の苦境と政府・日銀の過ち http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110702/1309578197