シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

「ヴェルグルの奇跡」再現マニュアル(法令編)

恐慌最中の1932年、オーストリアチロル地方のヴェルグル町の町長は、実業家・経済理論家のシルビオ・ゲゼルが発表していた「減価する紙幣」理論を実践しました。

 

当時の人口わずか4300人のこの街には500人の失業者と1000人の失業予備軍がいました。通貨が貯め込まれ、循環が滞っていることが不景気の最大の問題だと考えた当時の町長ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガーは、自由貨幣の発行を実践してみることを決意し、1932年7月の町議会でスタンプ通貨の発行を決議しました。

 町長は、自らの財産を担保にして原資を作り、減価紙幣「労働証明書」を発行して周辺地域が失業率20%を超える中、多くの雇用を創出した実績は、当時のマスコミから「ヴェルグルの奇跡」として驚きを持って世界に紹介されました。

 

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  ヴェルグルの「労働証明書」

デフレで紙幣の実質価値が重くなる中、それ以上の速さで

紙幣価値を劣化させるべく、月初に額面の1%のスタンプを貼らなければ

通用しないこととした。単純計算で、年利△12%の減価紙幣となっている。

 そしてヴェルグル町では、わずか3.2万オーストリア・シリングが、254.7万シリングの売買につながり、通常のオーストリアシリングの14倍もの貨幣流通速度を記録しました。

 

周辺地域が失業率が2割を超えている中、ヴェルグルでは失業率は大変低かったようです。

 

これらの出来事は、マスコミから「ヴェルグルの奇跡」として注目を浴び、オーストリア国内のみならず、隣国ドイツ、更には米国ではイェール大学の経済学者アーヴィング・フィッシャーも注目するところとなり、ヴェルグルの後を追うように、オーストリアでは200以上、米国でも400を超す都市で減価紙幣の導入が検討されました。 

 

ところが、翌33年、オーストリア中央銀行にあたるオーストリア国立銀行が「国家の通貨システムを乱す」として、法廷での決定を通じて禁止通達を出し、労働証明書という減価紙幣は13ヶ月半の活用期間の後、1933年11月に廃止されました。 *1

 

こうした成功と失敗から、次のような教訓が得られます。

 

減価する地域通貨は、現代日本のようなデフレ経済を活性化する、大きな可能性を秘めています。

ただし、国・日銀が独占的に保有する、通貨発行権を侵害しかねない存在でもあります。そこで減価する地域通貨を設計するとすれば、日本の法令の幾つかに配慮する必要があります。 

 

今回は減価する地域通貨が関係し得る法令とその抵触回避法について考えてみたいと思います。 *2

 

1.紙幣類似証券取締法

【法の主旨】国・日銀の通貨発行権を独占的権利として保護する。

地域通貨を円貨表示にするとこの法律に抵触する可能性が出てくる。但し、北海道・留辺蘂町のように、幾つかの縛りを受容することで、円貨表示の地域通貨を発行した事例は存在する。

貨幣であることの3つの基準のいずれをも満たせば紙幣とされる。  

 3基準とは「紙幣の機能とは、何処でも、誰でも、何にでも支払いないし決済の手段として利用できること。」従って、これらから何かが欠落すれば紙幣類似とはならない、とされている。 

 例えば希望者を会員として募り、募った会員に会費を支払ってもらいその御礼として地域通貨を交付するなどは貨幣類似と捉えられる恐れがないものと思われる。    

2.「プリペイドカード法」

正式名:前払式証票の規制などに関する法律     

【法の主旨】プリペイドカードに代表される「前払式証票(以下プリカ)」について、その発行者に対して登録その他の必要な規制を行い、その発行等の業務の適正な運営を確保することにより、プリカの購入者等の利益を保護するとともに、プリカの信用の維持に資すること。

 

この法規との関連から、「円と地域通貨を交換する」、あるいは「地域通貨を円で購入する」という表現は好ましくない。

 

ただし、有効期間6ヶ月以下ならば適用除外、という裏ワザもあり、有効期限を6ヶ月以内に制限している地域通貨もみられる。

         

3.出資法

【法の主旨】「不特定かつ多数の者に対し、後日出資の払い戻しとして出資金の全額またはこれを超える額を払うことを示して出資金の受け入れをすることを禁止している。

 

従って、7600円で販売した地域通貨を必ず後日7600円超で買い戻すと取り決める、といった仕組みは、出資法に照らしご法度となる恐れがある。    

 

4.税法上の取扱い

地域通貨の受け入れ率により課税対象かどうかが決まる。」とされている。*3

 

 

5.労働基準法

【法の主旨】労働者には「通貨支払いの原則、全額払いの原則」などの保護がある。

 

従って、例えば公務員給与を直接地域通貨で支払うなどは労働基準法に抵触する恐れが強い。*4

 

6.銀行法信託法

地域通貨の制度設計においてこれらの法律が関係する場合があるので、一定の注意を要する。 *5

  

こうした法令とその主旨を踏まえれば、次のような減価する地域通貨によりデフレ日本でも「ヴェルグルの奇跡」を合法的に再現できそうです。

 

  • 実施主体はNPO法人、それを地域の地方公共団体が支援し、出資者(=参画消費者・企業)保護も行う。
  • 紙幣類似証券取締法への抵触を避けるべく、通貨単位は円は避ける。公募して親しみがあるものを選択するも可。ただし、2文字が呼びやすい(エン、ドル、ゲン、ウォンといった具合)。
  • プリペイドカードへの抵触を避けるべく、地域通貨を円で売買するという発想は好ましくない。 出資希望者を募り、参加会費7600円に対し、10000ポイント券をお礼として発行し流通させるなどの工夫が要る。
  • 出資法への抵触を避けるべく、出資された金額よりも多くを出資者に返却する仕組みは採れない。7600円出資を受ければ返却の必要があれば上限が7600円。
  • 税法上の取扱いは税務当局の指示に従う。
  • 労働基準法への抵触を避けるべく、給与の一部を減価紙幣で支払うなどは不可。
  • 銀行法信託法については、必要に応じ金融庁に照会する。

いろいろ法令が関係して大変そうですが、先行事例が多いのですから、日本で法令に触れない「減価紙幣」を地域で創出することはやってやれないことはなさそうです。

 

次からは地方自治体、地域政治家との連携による実践編に進みたいと思います。(^^)/

*1:米国でも上下院で公式化法案が出されるもルーズベルトにより廃案とされ、代わりに、いわゆるニューディール政策が実施されました。

*2:この内容は和歌山社会経済研究所(H14)の「地域通貨によるコミュニティの再生を参考にさせていただきました。

*3:詳細未調査。

*4:勿論、10000P地域通貨券を公務員らが7600円など適正な出資金へのお礼として受領することは構わないと考えられる

*5:例えばhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/kouzou2/osirase/030509/betten2/3.pdf の3.06-3.08

いらっしゃいませ、「シェイブテイルのデフレ脱却実践記」です。

 

いらっしゃいませ。「シェイブテイルのデフレ脱却実践記」です。

私はある面大変打たれ強い()長所を活かし、知らないことを追求しよう、という観点から、大学は生物、大学院では薬学を専攻し、マクロ経済は学部で習ったかどうかも覚えていない、というわが身も顧みず、いい年をしたおっさんが、いちからマクロ経済研究をかじってみようという

シェイブテイル日記

をここ数年綴ってまいりました。

 

ただ、今年4月、来年10月と消費税が計5%も上がる中、お座なりな経済対策では、1997年の橋本増税・橋本デフレの再来、安倍増税・安倍デフレとなりそうな空気を読み、駄目元で、デフレ脱却バーチャル政党「反デフレアミーゴ党」というのも作りました。

 

このバーチャル政党を通じて、初めて出会った方々にも多士済々いろいろな方がいらっしゃいます。 そしてシェイブテイル日記、反デフレアミーゴ党活動(ってわずか1ヶ月あまりですが)を介して、ある方法に本気で取り組めば取り組んだ地域だけはデフレの被害を免れそうという確信を得ました。

 

あたかも、大洪水の予感を前に、「ノアの方舟」を創り始める気持ちでいます。そう、デフレ大洪水を前に、シェイブテイルの方舟を創る材料はほぼ揃ったのです! 

 

勿論、シェイブテイルの方舟は出来が悪く沈没する可能性は多々あります。100%助かります、などと甘ちゃんなことを書く気は毛頭ありません。

 

ただ、シェイブテイルの方舟が沈んでも、どこに穴があって沈んだのかをこうやって記録することは次のデフレ脱却方舟の建造を計画する方の参考にはなるはずです。

ということで、「シェイブテイル日記」の内容を取り込んで「シェイブテイルのデフレ脱却実践記」を書き始めたいと思います。 なお反デフレアミーゴ党も続けますので、Twitterで@shavetailをフォローし私も相互フォローした場合、仮想政党「反デフレアミーゴ党」に入湯入党されたものとします。

っても入党なのか入湯なのか分からない暖かくゆる~い党(湯トウ?)ですので、ご心配なくご入党くださいw

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減価紙幣:tdam氏の疑問を考える

2回にわたって書きました消費増税にも負けない「減価紙幣」政策。
基本的にはどの地方自治体でも実施可能なデフレ脱却・景気浮揚策と考えられます。

2014-02-12 「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案 - シェイブテイル日記 「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案 - シェイブテイル日記

ただ、読者のtdam氏からは次のような疑問が寄せられました。

需要の域外漏出が完全に防げるなら費用対効果が高そうな政策。公共事業限定なら成功かもしれないが、大阪市に必要な公共事業が如何程か…。成功でも帰結は日銀・円の死=官僚が阻止。興味深い思考実験だが実現困難。

1.公務員給与の代替
減価紙幣は確かに公共事業にも使えますが、公務員給与の一部を選択制として代替することもできそうです。
たとえば、公務員給与のうち、8800円をそのまま給与としてもらうも可能、10,000ポイント(=行使価値1万円)の減価紙幣として受け取るも可能、といった具合に
減価紙幣で渡した場合、キャッシュフローベースでは市は8800円キャシュアウトが減りますし10,000ポイントを受け取った人が、2年後(その時の保有者は誰かは分かりませんが)までに2400円分のスタンプを貼付するので、1万円として償還する必要がある二年後には市の手元には11,200円があるので、償還・消却しても1,200円が市財政に残ることになります。。*1


2.市外地域との取引と域内閉じ込め効果
市内では10,000ポイントが、受入れ意志のある企業には10,000円商品券として使えるのが、市外向けではただの7,600円金券扱い、というのはちょっと格差が大きすぎますね。
こうした時を裁定機会と捉えて稼ぐ人たちが出てきます。市外の人には7,600円でしかない10,000ポイント券を買い取って、市内の人に売却すれば0−2,400円の間のサヤ取りができてしまいます。すると裁定機会解消に向け市場圧力がかかり、しばらくするとその濡れ手で泡、というのはほとんど機会がなくなり市外向けには8,800円程度の金券として使われる事になりそうです。*2

市外業者からみれば、通常10,000万円のものが8,800円金券で買われるのは割がありませんから、更に+1,200円を要求するか、減価紙幣を用いた商取引を断るかするでしょう。

従って、価格競争力が多少劣っていた地域内業者に減価紙幣を受け取って販売する機会が増加し、域内で、高い経済循環を閉じ込める効果がありそうです。

この減価紙幣は思考実験としては大変面白いものですので、更にケースを追加して、それぞれでどういった結論になるのか考えていきたいと思います。

*1:H26.02.24後記:法規を調べると、このような、「給与に替えてポイントで支払う」という方法は労働基準法に抵触することがわかりました。 従って、一旦7,800円として給与を現金で支払った後に、その金額の出資を受け、1万ポイント券を贈呈するといった形式を取る必要がありそうです。

*2: (0円+2,400円)÷2=1,200円のディスカウントで裁定機会解消の可能性が高いため

減価地域通貨に、行政当局らはどう応えるのか

先に書きました、

「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案 

は、特に大阪市に限って有効ということではありませんので、消費増税の悪影響が出る前に、各都道府県の地方自治体でも独自に減価紙幣による経済活性化に取り組むことは「冒険」というよりも「保険」のようなものだと言って良いでしょう。

 

 とはいえ、お金が絡むことですし、各地方自治体はその上位地方自治体さらには総務省(旧自治省)などの意向もあって、自由自在に減価紙幣を発行し経済活性化を図る、というわけにはいかないかも知れません。

 

ただ減価紙幣についてはヴェルグルでの経験の他にも多数の成功事例がオーストリア・ドイツ・米国に数百件単位であることですし、後は行政当局がどう反応するかが一番のポイントでしょう。 これについては2009年に村井長野県知事に対し同県職員宮本が提出した建白書のその後の経緯がひとつ参考事例となるでしょう。

減価する紙幣について地方自治体はどう捉えているか - シェイブテイル日記変更する

 恐らくは前例主義に則り、「財源に難あり」といった理由で葬ろうとする(自分の担当時代に波風を立てたくない)担当者が少なくないでしょう。 

ところが、少し考えれば解る話ですが、今回大阪市に提案した

「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案

の場合、償還財源は大阪市民が払ってくれる仕組みですので、大きな財源を準備して開始する必要がないのです。

 

また、金融庁は、「 紙幣類似証券取締法と地域通貨との関連には慎重であるべき」ではあるものの、「 地域通貨実態も様々で地域通貨の明確な定義はなく、したがってガイドラインも作成できない」との立場を採っています。要するに、「ガイドラインなどはなく、案件別に是々非々で考えるので、個別に案件を相談してください。」という立場と考えられます。

 

なお、地域通貨の「単位」が「円」である場合には財務省も関心がある領域となります。

 

財務省では紙幣類似証券取締法との関係はまず関心事となりますので、日本国内において地域通貨を運営する場合、この法律の適用対象となる可能性があるというので、円以外の通貨名を用いたり、有効期限を定めたり、会員のみが使用可能な通貨の体裁を取ったりすることで、法的問題を回避していてたのが実情でした。 ただ紙幣類似証券取締法の第1条では「財務大臣ニ於テ其ノ発行及流通ヲ禁止スルコトヲ得」とあるのみで、
財務大臣が必ず禁止する、とも言えません。

 

2003年2月に財務省は「複数回流通は登録事業者間に限る」「換金は登録事業者が指定金融機関で行う」などの条件を満たせば「紙幣類似証券取締法」に違反しない、との方針を示した結果、現在では北海道・留辺蘂(ルベシベ)町などが円建ての地域通貨を発行するに至っています。

 

こうして過去の事例を踏まえて考えますと、1ポイント=1円で通用する1000ポイント減価紙幣を760円で地方自治体が販売し、その地方自治体内での通用を保証する、というスタイルの減価紙幣ならば、行政当局も、日銀も通貨発行権との絡みで問題だという根拠は消滅するでしょう。

 

2009年に総務省は長野県職員の宮本氏による減価紙幣建白書を門前払いしてしまいましたが、「財源なら自治体民自身が100%払うので財源問題は発生しません」といえば済むことでしょう。

 

全国に、減価紙幣の輪が広がり、少なくともその地域では失業率が下がり、好況に湧くという私にとっての夢が広がることを祈って止みません。

 

「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案

1.今のタイミングでの「大阪都構想」市長選挙の愚

阪市では橋下市長が一旦市長を辞任し、3月下旬に大阪都構想具体化について是非を問う意味での大阪市長選挙が実施されます。 

 

 これに対し、大阪市自民党府議連は2/8には早々と「大義なき選挙は時間の無駄」として「不戦敗戦術を採ることを党中央(石破幹事長)に伝達しました。 ただ石破氏は「(不戦敗戦術は)現段階では承認しかねる」との立場だったとか。*1

また大阪市民も都構想などには関心が薄いようで、橋下市長支持率も市長就任後初めて5割を切ったと報じられています。維新以外の政党も「候補者を立てるべきだ」と答えた人は59%で、「そうは思わない」は29%だったとのこと。(朝日新聞の朝日RRD調査2/7-8による)

 

では本当に、大阪市を取り巻く課題で、大阪都構想以外には争点とすべきものは何もないのでしょうか。 

 

 消費税が4月に8%へ上がることが決まり、また恐らくは来年10月にも10%に上がるシナリオは不動でしょう。

 先の、1997年橋本龍太郎内閣での3%から5%への2%増税では、事前に5.5兆円の経済対策(消費増税への地ならし財政出動)がなされ、確かに増税した1997年始めはまだ経済は落ち着いていましたが、同年後半以降地滑り的に経済は悪化し、山一證券破綻、アジア通貨危機などが生じ、1998年以降ごく最近まで日本の自殺者数は2万人台から3万人台に安定的高止まりし、98年以降GDPデフレーターベースでは16年連続のデフレでした。

 

 97年消費増税の見かけのプラス効果を除外すれば、19年連続デフレ。これは世界金融史上にもまれなほどの連続年数記録。英国の「大不況」では24年デフレなどと称されますが、実際にはデフレは断続的に発生しており、連続年数ではわずか5年です。数百年にわたる金融史上においてさえ、現代日本のデフレの凄さが分かります。その引き金となったのがわずか2%の消費税増税だったのです。

*2

 

 となれば2度にわたる5%の消費税増税への対策が求められるのは当然のことでしょう。政府自民党では確かに消費税増税対策として奇しくも前回消費税増税時と同じ5.5兆円の経済対策でお茶を濁していますが、97年後半から数年では、橋本内閣、小渕内閣合わせて58兆円 *3が必要となりました。

 

要するに5%もの消費税増税をデフレ脱却前に実施することがほぼ決定した以上ひつようなのは都構想の是非などではなく、

大幅な景気下落を見越した緊急かつ有効な経済対策こそ必要なのです。

 

2.消費税にも打ち勝つ秘策、減価紙幣

年先まで見通した時、今後の日本の悲惨な経済環境を踏まえると、大阪市長になろうとする人に求められるのは「都構想」などといった愚にもつかない机上の空論ではなく、実績のある経済対策なのです。

 

デフレ期に大変有効であり、かつ地方単独で実施可能な経済政策といえば減価紙幣が考えられます。

 

2-1 ヴェルグルの奇跡

  減価紙幣のアイディアは、ドイツ生まれ*4でアルゼンチンで事業に成功していたシルビオ・ゲゼルによって「自由貨幣」という名で、通常のマネーとは逆に時間とともに価値が減ずる貨幣として考案されました。

ただ、実際に実施したのは大恐慌期の1932年オーストリア・チロル州のヴェルグル市の新市長、ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガーでした。大恐慌に際しヴェルグル市も御多分にもれず、失業者は2割を超えました。失業対策費により市の財政も尽きかけた時、市長は自分の財産を担保に銀行から32,000オーストリア・シリングを借り受け、これを原資として月に1%価値が減ずる貨幣を作り市民に配布しました。実際には公共事業に参加してもらいその労働対価として払ったことから、「労働証明書」と呼ばれました。この労働証明書は1シリング、5シリング、10シリングの3種が発行されました。そして次の月の初めになると、額面の1%の証紙(スタンプ)を貼らないと無効になってしまう、というものでした。価値が減ずる貨幣、「労働証明書」は恐ろしく速く町中を回転しました。 その後禁止(後述)となるまでの13.5ヶ月間に労働証明書3.2万シリングが254.7万シリングの売上につながったと伝えられています。 

日本の経済対策で、3.2兆円規模というのは普通ですが、それで増加した売上が名目GDPの半分を超える255兆円だった、という状況を考えれば労働証明書の効果の凄さが分かります。 通常のシリングに比べ、貨幣流通速度は14倍に達したそうです。

失業者も大幅に減りました。

 

この、当時のマスコミから「ヴェルグルの奇跡」と呼ばれた減価紙幣の威力はオーストリアだけでなく大恐慌中のドイツ・フランス・米国にも喧伝され、米国からはアーヴィング・フィッシャーが、視察団が同市を訪問し、その効果を賞賛しました。

オーストリア・ドイツでは200自治体、米国でも400自治体が減価紙幣を実施または計画しました。

 

もっともヴェルグルの奇跡については、オーストリア国立銀行(中央銀行)が法廷で「オーストリア・シリングの通貨発行権」は我々のみ属するとの主張をして認められたため、実施翌年の1933年にはこの大成功した社会実験は中止に追い込まれました。

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 各スタンプ貨幣には使用した月数に応じた1%のスタンプが貼付されていることがわかる。

 

2-2 日本での検討例

減価紙幣は「減価する地域通貨」と考えられます。

地域通貨(通常は金利なし)は日本全国多数の自治体・コミュニティで実施され、日本には662件存在が報告されています(2011年時点)。

 

一方、減価する紙幣は実施例の記録がありません。 減価紙幣が機能するのはデフレですから、大恐慌以降では1997年の橋下消費税デフレ位しか着目される期間はありませんでした。

 

2009年、長野県職員だった宮本吉寿氏が村井知事(当時)に建白書を提出し、当時麻生総理の発案で景気対策として実施されつつあった「定額給付金」向けの財源を、減価紙幣に充てる、という画期的な提案をしました。*5

 

ところが宮本建白書とそれに追随した全国20余の自治体への減価紙幣提案は、どうやら同じ総務省に照会した結果(カンペ?)、どこも判でついたように「定額給付金は個々人に配られることが決まっており、それを別の目的の財源とすることは罷りならぬ」という理由で葬り去られました。

 

2-3 有力大阪市議にシェイブテイルが提案した減価紙幣のスキーム

筆者は大阪在住ではありませんが、とある偶然から元大阪市議会議長さんと懇意にさせていただいています。 この方は現役大阪市議会議員でもあるので、来年・再来年の消費税増税にも打ち勝つ経済対策として次のようなスキームを提案しました(以下概要)。

 

1)ヴェルグルの労働証明書に倣い、1000円(あるいは1000ポイント、1ポイント=1円)の減価紙幣を大阪市が発行する。

2) この1000円減価紙幣を大阪市民に限り760円で販売する。強制通用力はないものの、事前に届けてもらった、減価紙幣行使を容認する業者・個人間で、1000円として通用させる。 つまり当初は24%ディスカウントで物品が買える、というわけです。

3)翌月月初になれば、10円の印紙(または切手)を貼付する欄に印紙を貼らなければ通用しないこととする。従って月内にこの1000円減価紙幣を使おうと市民は争ってモノを買う。

4)但し、減価紙幣の減価をとめるために、直ちに預貯金として預ける、あるいは5円のものを1000円減価紙幣で購入して995円の円貨を手に入れるといった行為は禁止。

(この部分はもう少し吟味する必要がありそうですね)

5)大阪市庁あるいは市外への支払いに際しては、ディスカウント部分は除く「760円+貼付した10円スタンプ数」の金券として使う

6)こうした市内と市外での大きな格差を埋める手段として、手形割引の手法や、金券ショップを活用して任意価格での円貨交換は認める

7)こうして2年の通用期間が終わると、大阪市には1000円減価紙幣1枚あたり760円+240円の税外収入が入っているので、この1000円をもって1000円減価紙幣を消却し使命を終わらせる。

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   今回大阪市議に提案した減価紙幣の「利得表」

減価紙幣は市内では常に1,000円で通用するものの、物が安く買えるディスカウント率は次第に悪化し、2年後にはゼロとなり減価が止まる(スタンプ貼付が不要となる)。

 

*1:日刊ゲンダイ 20140208

*2:2012-04-08 英国大不況時と現代日本のデフレの違いは? -シェイブテイル日記 このエントリーを含むブックマーク

*3:98年4月に16兆円、橋下政権が倒れた後を受けた小渕内閣で98年11月に緊急経済対策24兆円、99年11月にも経済新生対策18兆円

*4:現在はベルギー

*5:2009-01-26 是非ご協力をお願いします - 日本人が知らない 恐るべき真実定額給付金を財源とした地域振興券の発行を

2 減価地域通貨に、行政当局らはどう応えるのか

先に書きました、

「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案 

は、特に大阪市に限って有効ということではありませんので、消費増税の悪影響が出る前に、各都道府県の地方自治体でも独自に減価紙幣による経済活性化に取り組むことは「冒険」というよりも「保険」のようなものだと言って良いでしょう。

 とはいえ、お金が絡むことですし、各地方自治体はその上位地方自治体さらには総務省(旧自治省)などの意向もあって、自由自在に減価紙幣を発行し経済活性化を図る、というわけにはいかないかも知れません。

ただ減価紙幣についてはヴェルグルでの経験の他にも多数の成功事例がオーストリア・ドイツ・米国に数百件単位であることですし、後は行政当局がどう反応するかが一番のポイントでしょう。 これについては2009年に村井長野県知事に対し同県職員宮本が提出した建白書のその後の経緯がひとつ参考事例となるでしょう。

減価する紙幣について地方自治体はどう捉えているか - シェイブテイル日記

恐らくは前例主義に則り、「財源に難あり」といった理由で葬ろうとする(自分の担当時代に波風を立てたくない)担当者が少なくないでしょう。 

ところが、少し考えれば解る話ですが、今回大阪市に提案した

「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案

の場合、償還財源は結局2年後までには、1,000ポイント券の対価1,000円は大阪市民が払ってくれる仕組みですので、大きな財源を準備して開始する必要がないのです。

また、金融庁は、「 紙幣類似証券取締法と地域通貨との関連には慎重であるべき」ではあるものの、「 地域通貨実態も様々で地域通貨の明確な定義はなく、したがってガイドラインも作成できない」との立場を採っています。要するに、「ガイドラインなどはなく、案件別に是々非々で考えるので、個別に案件を相談してください。」という立場と考えられます。

なお、地域通貨の「単位」が「円」である場合には財務省も関心がある領域となります。

財務省では紙幣類似証券取締法との関係はまず関心事となりますので、日本国内において地域通貨を運営する場合、この法律の適用対象となる可能性があるというので、円以外の通貨名を用いたり、有効期限を定めたり、会員のみが使用可能な通貨の体裁を取ったりすることで、法的問題を回避していてたのが実情でした。 ただ紙幣類似証券取締法の第1条では「財務大臣ニ於テ其ノ発行及流通ヲ禁止スルコトヲ得」とあるのみで、
財務大臣が必ず禁止する、とも言えません。

2003年2月に財務省は「複数回流通は登録事業者間に限る」「換金は登録事業者が指定金融機関で行う」などの条件を満たせば「紙幣類似証券取締法」に違反しない、との方針を示した結果、現在では北海道・留辺蘂(ルベシベ)町などが円建ての地域通貨を発行するに至っています。

こうして過去の事例を踏まえて考えますと、1ポイント=1円で通用する1000ポイント減価紙幣を760円で地方自治体が販売し、その地方自治体内での通用を保証する、というタイプの減価紙幣ならば、行政当局も日銀も、通貨発行権との絡みで問題だという根拠は消滅するでしょう。

2009年に総務省は長野県職員の宮本氏による減価紙幣建白書を門前払いしてしまいましたが、「財源なら自治体民自身が100%払うので財源問題は発生しません」といえば済むことでしょう。

全国に、減価紙幣の輪が広がり、少なくともその地域では失業率が下がり、好況に湧くという私にとっての夢が広がることを祈って止みません。

「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案

1.今のタイミングでの「大阪都構想」市長選挙の愚

阪市では橋下市長が一旦市長を辞任し、3月下旬に大阪都構想具体化について是非を問う意味での大阪市長選挙が実施されます。 

これに対し、大阪市自民党府議連は2/8には早々と「大義なき選挙は時間の無駄」として「不戦敗戦術を採ることを党中央(石破幹事長)に伝達しました。 ただ石破氏は「(不戦敗戦術は)現段階では承認しかねる」との立場だったとか。*1

また大阪市民も都構想などには関心が薄いようで、橋下市長支持率も市長就任後初めて5割を切ったと報じられています。維新以外の政党も「候補者を立てるべきだ」と答えた人は59%で、「そうは思わない」は29%だったとのこと。(朝日新聞の朝日RRD調査2/7-8による)

では本当に、大阪市を取り巻く課題で、大阪都構想以外には争点とすべきものは何もないのでしょうか。 

消費税が4月に8%へ上がることが決まり、また恐らくは来年10月にも10%に上がるシナリオは不動でしょう。

先の、1997年橋本龍太郎内閣での3%から5%への2%増税では、事前に5.5兆円の経済対策(消費増税への地ならし財政出動)がなされ、確かに増税した1997年始めはまだ経済は落ち着いていましたが、同年後半以降地滑り的に経済は悪化し、山一證券破綻、アジア通貨危機などが生じ、1998年以降ごく最近まで日本の自殺者数は2万人台から3万人台に安定的高止まりし、98年以降GDPデフレーターベースでは16年連続のデフレでした。

97年消費増税の見かけのプラス効果を除外すれば、19年連続デフレ。これは世界金融史上にもまれなほどの連続年数記録。英国の「大不況」では24年デフレなどと称されますが、実際にはデフレは断続的に発生しており、連続年数ではわずか5年です。数百年にわたる金融史上においてさえ、現代日本のデフレの凄さが分かります。その引き金となったのがわずか2%の消費税増税だったのです。*2

となれば2度にわたる5%の消費税増税への対策が求められるのは当然のことでしょう。政府自民党では確かに消費税増税対策として奇しくも前回消費税増税時と同じ5.5兆円の経済対策でお茶を濁していますが、97年後半から数年では、橋本内閣、小渕内閣合わせて58兆円 *3が必要となりました。

要するに5%もの消費税増税をデフレ脱却前に実施することがほぼ決定した以上、都構想の是非などを大阪府市民に問うているような悠長な場合ではなく、

大幅な景気下落を見越した緊急かつ有効な経済対策こそ必要なのです。

2.消費税にも打ち勝つ秘策、減価紙幣

年先まで見通した時、今後の日本の悲惨な経済環境を踏まえると、大阪市長になろうとする人に求められるのは「都構想」などといった愚にもつかない机上の空論ではなく、実績のある経済対策なのです。

デフレ期に大変有効であり、かつ地方単独で実施可能な経済政策といえば減価紙幣が考えられます。

2−1 ヴェルグルの奇跡

 減価紙幣のアイディアは、ドイツ生まれ*4でアルゼンチンで事業に成功していたシルビオ・ゲゼルによって「自由貨幣」という名で、通常のマネーとは逆に時間とともに価値が減ずる貨幣として考案されました。

ただ、実際に実施したのは大恐慌期の1932年オーストリア・チロル州のヴェルグル市の新市長、ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガーでした。大恐慌に際しヴェルグル市も御多分にもれず、失業者は2割を超えました。失業対策費により市の財政も尽きかけた時、市長は自分の財産を担保に銀行から32,000オーストリア・シリングを借り受け、これを原資として月に1%価値が減ずる貨幣を作り市民に配布しました。実際には公共事業に参加してもらいその労働対価として払ったことから、「労働証明書」と呼ばれました。この労働証明書は1シリング、5シリング、10シリングの3種が発行されました。そして次の月の初めになると、額面の1%の証紙(スタンプ)を貼らないと無効になってしまう、というものでした。価値が減ずる貨幣、「労働証明書」は恐ろしく速く町中を回転しました。 その後禁止(後述)となるまでの13.5ヶ月間に労働証明書3.2万シリングが254.7万シリングの売上につながったと伝えられています。 

日本の経済対策で、3.2兆円規模というのは普通ですが、それで増加した売上が名目GDPの半分を超える255兆円だった、という状況を考えれば労働証明書の効果の凄さが分かります。 通常のシリングに比べ、貨幣流通速度は14倍に達したそうです。

失業者も大幅に減りました。

 この、当時のマスコミから「ヴェルグルの奇跡」と呼ばれた減価紙幣の威力はオーストリアだけでなく大恐慌中のドイツ・フランス・米国にも喧伝され、米国からはアーヴィング・フィッシャーの発案による視察団が同市を訪問し、フィッシャーはその驚異的効果を賞賛しました。

 オーストリア・ドイツでは200自治体、米国でも400自治体が減価紙幣を実施または計画しました。

もっともヴェルグルの奇跡については、オーストリア国立銀行(中央銀行)が法廷で「オーストリア・シリングの通貨発行権」は我々のみ属するとの主張をして認められたため、実施翌年の1933年にはこの大成功した社会実験は中止に追い込まれました。

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 各スタンプ貨幣には使用した月数に応じた1%のスタンプが貼付されていることがわかる。

2−2 日本での検討例


減価紙幣は「減価する地域通貨」と考えられます。

地域通貨(通常は金利なし)は日本全国多数の自治体・コミュニティで実施され、日本には662件存在が報告されています(2011年時点)。

一方、減価する紙幣は実施例の記録がありません。 減価紙幣が機能するのはデフレですから、大恐慌以降では1997年の橋本消費税デフレ位しか着目される期間はありませんでした。

2009年、長野県職員だった宮本吉寿氏が村井知事(当時)に建白書を提出し、当時麻生総理の発案で景気対策として実施されつつあった「定額給付金」向けの財源を、減価紙幣に充てる、という画期的な提案をしました。*5

ところが宮本建白書とそれに追随した全国20余の自治体への減価紙幣提案は、どうやら同じ総務省に照会した結果(カンペ?)、どこも判でついたように「定額給付金は個々人に配られることが決まっており、それを別の目的の財源とすることは罷りならぬ」という理由で葬り去られました。

2−3 有力大阪市議にシェイブテイルが提案した減価紙幣のスキーム


筆者は大阪在住ではありませんが、とある偶然から元大阪市議会議長さんと懇意にさせていただいています。 この方は現役大阪市議会議員でもあるので、来年・再来年の消費税増税にも打ち勝つ経済対策として次のようなスキームを提案しました(以下概要)。

この減価紙幣提案でユニークなのは、以下のスキームのように、大阪市として特に財源が必要ないという点です。

勿論、減価紙幣の印刷代、管理運営費用など必要ですが、ヴェルグルのように、3.2億円の減価紙幣が大阪市に255億円の売上増をもたらすのであれば、消費税増収分のごくごく一部分でこうした付帯費用はまかなえるでしょう。


1)ヴェルグルの労働証明書に倣い、1000円(あるいは1000ポイント、1ポイント=1円)の減価紙幣を大阪市が発行する。

2) この1000円減価紙幣を大阪市民に限り760円で販売する。強制通用力はないものの、事前に届けてもらった、減価紙幣行使を容認する業者・個人間で、1000円として通用させる。 つまり当初は24%ディスカウントで物品が買える、というわけです。

3)翌月月初になれば、10円の印紙(または切手)を貼付する欄に印紙を貼らなければ通用しないこととする。従って月内にこの1000円減価紙幣を使おうと市民は争ってモノを買う。

4)但し、減価紙幣の減価をとめるために、直ちに預貯金として預ける、あるいは5円のものを1000円減価紙幣で購入して995円の円貨を手に入れるといった行為は禁止。

(この部分はもう少し吟味する必要がありそうですね)

5)大阪市庁あるいは市外への支払いに際しては、ディスカウント部分は除く「760円+貼付した10円スタンプ数」の金券として使う

6)こうした市内と市外での大きな格差を埋める手段として、手形割引の手法や、金券ショップを活用して任意価格での円貨交換は認める

7)こうして2年の通用期間が終わると、大阪市には1000円減価紙幣1枚あたり760円+240円の税外収入が入っているので、この1000円をもって1000円減価紙幣を消却し使命を終わらせる。

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   今回大阪市議に提案した減価紙幣の「利得表」

減価紙幣は市内では常に1,000円で通用するものの、物が安く買えるディスカウント率は次第に悪化し、2年後にはゼロとなり減価が止まる(スタンプ貼付が不要となる)。



*1:日刊ゲンダイ 20140208

*2:2012-04-08 英国大不況時と現代日本のデフレの違いは? −シェイブテイル日記 このエントリーを含むブックマーク

*3:98年4月に16兆円、橋本政権が倒れた後を受けた小渕内閣で98年11月に緊急経済対策24兆円、99年11月にも経済新生対策18兆円

*4:現在はベルギー

*5:2009-01-26 是非ご協力をお願いします - 日本人が知らない 恐るべき真実定額給付金を財源とした地域振興券の発行を