シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

日本での減価する地域通貨はなぜ上手くいっていないのか

80年前、オーストリア・チロル州のヴェルグルでは大変な経済効果を産み、マスコミが「ヴェルグルの奇跡」と賞賛するだけでなく、アーヴィング・フィッシャー、ケインズらの経済学者らも注目した減価する地域通貨

では、当時と同様にデフレの日本では減価する地域通貨というのはひとつもないのでしょうか?

もしあるのであれば、同じ減価する地域通貨なのに、80年前のヴェルグルのような瞠目すべき効果が見られないのはなぜなのでしょう。
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「ヴェルグルの奇跡」再現マニュアル(法令編)

大恐慌最中の1932年、オーストリアチロル地方のヴェルグル町の町長は、実業家・経済理論家のシルビオ・ゲゼルが発表していた「減価する紙幣」理論を実践しました。

当時の人口わずか4300人のこの街には500人の失業者と1000人の失業予備軍がいました。通貨が貯め込まれ、循環が滞っていることが不景気の最大の問題だと考えた当時の町長ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガーは、自由貨幣の発行を実践してみることを決意し、1932年7月の町議会でスタンプ通貨の発行を決議しました。

 町長は、自らの財産を担保にして原資を作り、減価紙幣「労働証明書」を発行して周辺地域が失業率20%を超える中、多くの雇用を創出した実績は、当時のマスコミから「ヴェルグルの奇跡」として驚きを持って世界に紹介されました。

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  ヴェルグルの「労働証明書」
デフレで紙幣の実質価値が重くなる中、それ以上の速さで

紙幣価値を劣化させるべく、月初に額面の1%のスタンプを貼らなければ

通用しないこととした。単純計算で、年利△12%の減価紙幣となっている。

 そしてヴェルグル町では、わずか3.2万オーストリア・シリングが、254.7万シリングの売買につながり、通常のオーストリアシリングの14倍もの貨幣流通速度を記録しました。


(以下はこちらのブログで御覧ください)

「ヴェルグルの奇跡」再現マニュアル(法令編)

恐慌最中の1932年、オーストリアチロル地方のヴェルグル町の町長は、実業家・経済理論家のシルビオ・ゲゼルが発表していた「減価する紙幣」理論を実践しました。

 

当時の人口わずか4300人のこの街には500人の失業者と1000人の失業予備軍がいました。通貨が貯め込まれ、循環が滞っていることが不景気の最大の問題だと考えた当時の町長ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガーは、自由貨幣の発行を実践してみることを決意し、1932年7月の町議会でスタンプ通貨の発行を決議しました。

 町長は、自らの財産を担保にして原資を作り、減価紙幣「労働証明書」を発行して周辺地域が失業率20%を超える中、多くの雇用を創出した実績は、当時のマスコミから「ヴェルグルの奇跡」として驚きを持って世界に紹介されました。

 

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  ヴェルグルの「労働証明書」

デフレで紙幣の実質価値が重くなる中、それ以上の速さで

紙幣価値を劣化させるべく、月初に額面の1%のスタンプを貼らなければ

通用しないこととした。単純計算で、年利△12%の減価紙幣となっている。

 そしてヴェルグル町では、わずか3.2万オーストリア・シリングが、254.7万シリングの売買につながり、通常のオーストリアシリングの14倍もの貨幣流通速度を記録しました。

 

周辺地域が失業率が2割を超えている中、ヴェルグルでは失業率は大変低かったようです。

 

これらの出来事は、マスコミから「ヴェルグルの奇跡」として注目を浴び、オーストリア国内のみならず、隣国ドイツ、更には米国ではイェール大学の経済学者アーヴィング・フィッシャーも注目するところとなり、ヴェルグルの後を追うように、オーストリアでは200以上、米国でも400を超す都市で減価紙幣の導入が検討されました。 

 

ところが、翌33年、オーストリア中央銀行にあたるオーストリア国立銀行が「国家の通貨システムを乱す」として、法廷での決定を通じて禁止通達を出し、労働証明書という減価紙幣は13ヶ月半の活用期間の後、1933年11月に廃止されました。 *1

 

こうした成功と失敗から、次のような教訓が得られます。

 

減価する地域通貨は、現代日本のようなデフレ経済を活性化する、大きな可能性を秘めています。

ただし、国・日銀が独占的に保有する、通貨発行権を侵害しかねない存在でもあります。そこで減価する地域通貨を設計するとすれば、日本の法令の幾つかに配慮する必要があります。 

 

今回は減価する地域通貨が関係し得る法令とその抵触回避法について考えてみたいと思います。 *2

 

1.紙幣類似証券取締法

【法の主旨】国・日銀の通貨発行権を独占的権利として保護する。

地域通貨を円貨表示にするとこの法律に抵触する可能性が出てくる。但し、北海道・留辺蘂町のように、幾つかの縛りを受容することで、円貨表示の地域通貨を発行した事例は存在する。

貨幣であることの3つの基準のいずれをも満たせば紙幣とされる。  

 3基準とは「紙幣の機能とは、何処でも、誰でも、何にでも支払いないし決済の手段として利用できること。」従って、これらから何かが欠落すれば紙幣類似とはならない、とされている。 

 例えば希望者を会員として募り、募った会員に会費を支払ってもらいその御礼として地域通貨を交付するなどは貨幣類似と捉えられる恐れがないものと思われる。    

2.「プリペイドカード法」

正式名:前払式証票の規制などに関する法律     

【法の主旨】プリペイドカードに代表される「前払式証票(以下プリカ)」について、その発行者に対して登録その他の必要な規制を行い、その発行等の業務の適正な運営を確保することにより、プリカの購入者等の利益を保護するとともに、プリカの信用の維持に資すること。

 

この法規との関連から、「円と地域通貨を交換する」、あるいは「地域通貨を円で購入する」という表現は好ましくない。

 

ただし、有効期間6ヶ月以下ならば適用除外、という裏ワザもあり、有効期限を6ヶ月以内に制限している地域通貨もみられる。

         

3.出資法

【法の主旨】「不特定かつ多数の者に対し、後日出資の払い戻しとして出資金の全額またはこれを超える額を払うことを示して出資金の受け入れをすることを禁止している。

 

従って、7600円で販売した地域通貨を必ず後日7600円超で買い戻すと取り決める、といった仕組みは、出資法に照らしご法度となる恐れがある。    

 

4.税法上の取扱い

地域通貨の受け入れ率により課税対象かどうかが決まる。」とされている。*3

 

 

5.労働基準法

【法の主旨】労働者には「通貨支払いの原則、全額払いの原則」などの保護がある。

 

従って、例えば公務員給与を直接地域通貨で支払うなどは労働基準法に抵触する恐れが強い。*4

 

6.銀行法信託法

地域通貨の制度設計においてこれらの法律が関係する場合があるので、一定の注意を要する。 *5

  

こうした法令とその主旨を踏まえれば、次のような減価する地域通貨によりデフレ日本でも「ヴェルグルの奇跡」を合法的に再現できそうです。

 

  • 実施主体はNPO法人、それを地域の地方公共団体が支援し、出資者(=参画消費者・企業)保護も行う。
  • 紙幣類似証券取締法への抵触を避けるべく、通貨単位は円は避ける。公募して親しみがあるものを選択するも可。ただし、2文字が呼びやすい(エン、ドル、ゲン、ウォンといった具合)。
  • プリペイドカードへの抵触を避けるべく、地域通貨を円で売買するという発想は好ましくない。 出資希望者を募り、参加会費7600円に対し、10000ポイント券をお礼として発行し流通させるなどの工夫が要る。
  • 出資法への抵触を避けるべく、出資された金額よりも多くを出資者に返却する仕組みは採れない。7600円出資を受ければ返却の必要があれば上限が7600円。
  • 税法上の取扱いは税務当局の指示に従う。
  • 労働基準法への抵触を避けるべく、給与の一部を減価紙幣で支払うなどは不可。
  • 銀行法信託法については、必要に応じ金融庁に照会する。

いろいろ法令が関係して大変そうですが、先行事例が多いのですから、日本で法令に触れない「減価紙幣」を地域で創出することはやってやれないことはなさそうです。

 

次からは地方自治体、地域政治家との連携による実践編に進みたいと思います。(^^)/

*1:米国でも上下院で公式化法案が出されるもルーズベルトにより廃案とされ、代わりに、いわゆるニューディール政策が実施されました。

*2:この内容は和歌山社会経済研究所(H14)の「地域通貨によるコミュニティの再生を参考にさせていただきました。

*3:詳細未調査。

*4:勿論、10000P地域通貨券を公務員らが7600円など適正な出資金へのお礼として受領することは構わないと考えられる

*5:例えばhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/kouzou2/osirase/030509/betten2/3.pdf の3.06-3.08

いらっしゃいませ、「シェイブテイルのデフレ脱却実践記」です。

 

いらっしゃいませ。「シェイブテイルのデフレ脱却実践記」です。

私はある面大変打たれ強い()長所を活かし、知らないことを追求しよう、という観点から、大学は生物、大学院では薬学を専攻し、マクロ経済は学部で習ったかどうかも覚えていない、というわが身も顧みず、いい年をしたおっさんが、いちからマクロ経済研究をかじってみようという

シェイブテイル日記

をここ数年綴ってまいりました。

 

ただ、今年4月、来年10月と消費税が計5%も上がる中、お座なりな経済対策では、1997年の橋本増税・橋本デフレの再来、安倍増税・安倍デフレとなりそうな空気を読み、駄目元で、デフレ脱却バーチャル政党「反デフレアミーゴ党」というのも作りました。

 

このバーチャル政党を通じて、初めて出会った方々にも多士済々いろいろな方がいらっしゃいます。 そしてシェイブテイル日記、反デフレアミーゴ党活動(ってわずか1ヶ月あまりですが)を介して、ある方法に本気で取り組めば取り組んだ地域だけはデフレの被害を免れそうという確信を得ました。

 

あたかも、大洪水の予感を前に、「ノアの方舟」を創り始める気持ちでいます。そう、デフレ大洪水を前に、シェイブテイルの方舟を創る材料はほぼ揃ったのです! 

 

勿論、シェイブテイルの方舟は出来が悪く沈没する可能性は多々あります。100%助かります、などと甘ちゃんなことを書く気は毛頭ありません。

 

ただ、シェイブテイルの方舟が沈んでも、どこに穴があって沈んだのかをこうやって記録することは次のデフレ脱却方舟の建造を計画する方の参考にはなるはずです。

ということで、「シェイブテイル日記」の内容を取り込んで「シェイブテイルのデフレ脱却実践記」を書き始めたいと思います。 なお反デフレアミーゴ党も続けますので、Twitterで@shavetailをフォローし私も相互フォローした場合、仮想政党「反デフレアミーゴ党」に入湯入党されたものとします。

っても入党なのか入湯なのか分からない暖かくゆる~い党(湯トウ?)ですので、ご心配なくご入党くださいw

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皆様大変お世話になりました。

この辺りで、「シェイブテイル日記」には一区切りつけたいと思います。
って、ブログ界から去るわけではありませんw

逆に、これまで数年デフレ日本経済を多様な切り口から眺めて、「この壁なら自分でもアタックできそう…。」と思えてしまったのですw

現実に徒手空拳に近い私シェイブテイルがデフレの壁を破るもしくは誰かが破る手助けをできるのか、やってみないと分からないことは多々あるのですが、やれそうならやってみようではないですか。

ということで、このブログはこちらに統合しまして、今後、1,2年はデフレ研究や場合によっては日銀批判だったりする外野の立場から、デフレ脱却実践にブログ内容の重心を移したいと思います。

シェイブテイルのデフレ脱却実践記
http://blog.hatena.ne.jp/shavetail1/shavetail2.hateblo.jp/

なお、上記ブログサイトには、このシェイブテイル日記の過去の記事もインポートしましたので、お気に入りマークを切り替えていただければと思います。

減価紙幣:tdam氏の疑問を考える

2回にわたって書きました消費増税にも負けない「減価紙幣」政策。
基本的にはどの地方自治体でも実施可能なデフレ脱却・景気浮揚策と考えられます。

2014-02-12 「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案 - シェイブテイル日記 「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案 - シェイブテイル日記

ただ、読者のtdam氏からは次のような疑問が寄せられました。

需要の域外漏出が完全に防げるなら費用対効果が高そうな政策。公共事業限定なら成功かもしれないが、大阪市に必要な公共事業が如何程か…。成功でも帰結は日銀・円の死=官僚が阻止。興味深い思考実験だが実現困難。

1.公務員給与の代替
減価紙幣は確かに公共事業にも使えますが、公務員給与の一部を選択制として代替することもできそうです。
たとえば、公務員給与のうち、8800円をそのまま給与としてもらうも可能、10,000ポイント(=行使価値1万円)の減価紙幣として受け取るも可能、といった具合に。
減価紙幣で渡した場合、キャッシュフローベースでは市は8800円キャシュアウトが減りますし10,000ポイントを受け取った人が、2年後(その時の保有者は誰かは分かりませんが)までに2400円分のスタンプを貼付するので、1万円として償還する必要がある二年後には市の手元には11,200円があるので、償還・消却しても1,200円が市財政に残ることになります。

2.市外地域との取引と域内閉じ込め効果
市内では10,000ポイントが、受入れ意志のある企業には10,000円商品券として使えるのが、市外向けではただの7,600円金券扱い、というのはちょっと格差が大きすぎますね。
こうした時を裁定機会と捉えて稼ぐ人たちが出てきます。市外の人には7,600円でしかない10,000ポイント券を買い取って、市内の人に売却すれば0−2,400円の間のサヤ取りができてしまいます。すると裁定機会解消に向け市場圧力がかかり、しばらくするとその濡れ手で泡、というのはほとんど機会がなくなり市外向けには8,800円程度の金券として使われる事になりそうです。*1

市外業者からみれば、通常10,000万円のものが8,800円金券で買われるのは割がありませんから、更に+1,200円を要求するか、減価紙幣を用いた商取引を断るかするでしょう。

従って、価格競争力が多少劣っていた地域内業者に減価紙幣を受け取って販売する機会が増加し、域内で、高い経済循環を閉じ込める効果がありそうです。

この減価紙幣は思考実験としては大変面白いものですので、更にケースを追加して、それぞれでどういった結論になるのか考えていきたいと思います。

*1: (0円+2,400円)÷2=1,200円のディスカウントで裁定機会解消の可能性が高いため

減価地域通貨に、行政当局らはどう応えるのか

先に書きました、

「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案 

は、特に大阪市に限って有効ということではありませんので、消費増税の悪影響が出る前に、各都道府県の地方自治体でも独自に減価紙幣による経済活性化に取り組むことは「冒険」というよりも「保険」のようなものだと言って良いでしょう。

 

 とはいえ、お金が絡むことですし、各地方自治体はその上位地方自治体さらには総務省(旧自治省)などの意向もあって、自由自在に減価紙幣を発行し経済活性化を図る、というわけにはいかないかも知れません。

 

ただ減価紙幣についてはヴェルグルでの経験の他にも多数の成功事例がオーストリア・ドイツ・米国に数百件単位であることですし、後は行政当局がどう反応するかが一番のポイントでしょう。 これについては2009年に村井長野県知事に対し同県職員宮本が提出した建白書のその後の経緯がひとつ参考事例となるでしょう。

減価する紙幣について地方自治体はどう捉えているか - シェイブテイル日記変更する

 恐らくは前例主義に則り、「財源に難あり」といった理由で葬ろうとする(自分の担当時代に波風を立てたくない)担当者が少なくないでしょう。 

ところが、少し考えれば解る話ですが、今回大阪市に提案した

「大阪都構想」に対抗すべく自民党に実施提案した減価紙幣案

の場合、償還財源は大阪市民が払ってくれる仕組みですので、大きな財源を準備して開始する必要がないのです。

 

また、金融庁は、「 紙幣類似証券取締法と地域通貨との関連には慎重であるべき」ではあるものの、「 地域通貨実態も様々で地域通貨の明確な定義はなく、したがってガイドラインも作成できない」との立場を採っています。要するに、「ガイドラインなどはなく、案件別に是々非々で考えるので、個別に案件を相談してください。」という立場と考えられます。

 

なお、地域通貨の「単位」が「円」である場合には財務省も関心がある領域となります。

 

財務省では紙幣類似証券取締法との関係はまず関心事となりますので、日本国内において地域通貨を運営する場合、この法律の適用対象となる可能性があるというので、円以外の通貨名を用いたり、有効期限を定めたり、会員のみが使用可能な通貨の体裁を取ったりすることで、法的問題を回避していてたのが実情でした。 ただ紙幣類似証券取締法の第1条では「財務大臣ニ於テ其ノ発行及流通ヲ禁止スルコトヲ得」とあるのみで、
財務大臣が必ず禁止する、とも言えません。

 

2003年2月に財務省は「複数回流通は登録事業者間に限る」「換金は登録事業者が指定金融機関で行う」などの条件を満たせば「紙幣類似証券取締法」に違反しない、との方針を示した結果、現在では北海道・留辺蘂(ルベシベ)町などが円建ての地域通貨を発行するに至っています。

 

こうして過去の事例を踏まえて考えますと、1ポイント=1円で通用する1000ポイント減価紙幣を760円で地方自治体が販売し、その地方自治体内での通用を保証する、というスタイルの減価紙幣ならば、行政当局も、日銀も通貨発行権との絡みで問題だという根拠は消滅するでしょう。

 

2009年に総務省は長野県職員の宮本氏による減価紙幣建白書を門前払いしてしまいましたが、「財源なら自治体民自身が100%払うので財源問題は発生しません」といえば済むことでしょう。

 

全国に、減価紙幣の輪が広がり、少なくともその地域では失業率が下がり、好況に湧くという私にとっての夢が広がることを祈って止みません。