シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

安倍総理の「MMTの論理、実行しているわけではない」は本当か

去る4月4日の参議院決算委員会で、西田昌司委員からMMT(現代金融理論)について問われた安倍首相らは次のように答弁しました。

jp.reuters.com

このロイターの記事では、委員会の席上西田昌司氏がMMTの根幹について平易に解説した部分はカットされていますので、この部分から書き起こしてみます。

www.youtube.com

(ビデオ23分付近)

西田委員 銀行は信用創造で十億でも百億でもお金を創り出せる。借入が増えれば預金も増える。これが現実。どうですか、日銀総裁

黒田総裁 銀行が与信行動をすることで預金が生まれることはご指摘の通りです。

西田委員 最近MMTとよばれる理論がいわれていて、その本質は信用創造により通貨は成り立っているんだと。国債についても同じことがいえます。「これ以上国債を発行したら引受け手がいない」といわれています。「引受け手がいなければ財政破綻してしまう」と。ところがそうではない。政府が国債を発行して事業を行えば国内にお金を出すので政府の借金も増えるが、民間の資産預金も増えるんです。いつまで経っても破綻しないんです。 今黒田総裁がいわれた信用創造と同じことなんです。これまで、預金を集めて(政府は)借金すると思われていたのが、実際は借金するから預金が生まれる。まさに天動説から地動説なんです(会場薄笑い漏れる)。これが理解できないとなぜ日本がこのような事態になっているのかわからない。

 財務省はこのままほっておいたらいずれ金利が騰がる、財政破綻する、いずれ通貨が暴落すると言ってきました。ここ20年来言ってきたが落ちない。まさにオオカミ少年なんです。 なんでこうなったのか。それは自分達(財務省)が使ってきた学説が間違っていたんです。もし通貨が商品だったらそれはそうなるんです。だが実際の通貨は信用創造で出来ている。だから需要さえあればお金は創り出せるんですよ。

 

これに対し…

麻生財務大臣 日本をMMTの実験場にするつもりはない。

黒田総裁 MMTへの評価については体系化された理論ではないためその全容を掴むことはなかなか難しいが、自国通貨はデフォルトしないので債務残高や財政赤字は考慮する必要がないという理解であれば、それは極端な主張でありなかなか受け入れられないのではないかと考えている。

とちょっと頓珍漢な答弁がありまして…

西田委員 今日本をMMTの実験場にするつもりはないという答弁があったが、それは大間違いで、実はもうやっている。過去20年来政府債務がまだ400兆円位の頃から「GDPと変わらないほどの政府債務があったら金利は騰がり、通貨は暴落して大変なことになる」といわれてきた。これは(財務省が)商品貨幣説に立っていたから。ところがいつまで経っても金利も騰がらなければ物価も騰がらない。それを今でも何時か起きるはずだといっている。 私が言っているのは逆で、財政破綻するはずがないと。すでのMMTに基づいた政策を日本はやってしまっているんです。(財務省は)自分たちが学んだ理論に現実を合わせようとするから間違いで、現実をみて理屈が合っていなければ理屈が間違っていると気がつかなければいけない。

安倍総理 確かに2012年にアベノミクスを始めようとしたらマスコミらに「それをやったら金利が騰がり、円が暴落する」といわれた。実際には国債金利は下がった。自国通貨建て国債はデフォルトしないというのは事実だと思う。しかしだからといって債務残高がどれだけ増えても問題はないのだろうか。(場内笑い) 西田氏は純粋な理論としておっしゃっているが、政府としては無駄な支出は戒めていかなければならない。財政再建は進めていきたい。

 

これを視聴すると、西田昌司氏の主張を聴いても、少なくとも安倍総理、麻生財務大臣財務省の商品貨幣説的財政破綻論から目が覚めていないようですね。

ただ西田昌司氏の最後の締めが素晴らしかった。

西田委員 恩師だった西部邁氏が私に度々言ったことがある。「西田君、民主主義とは少数派が議論を通じて多数派になる過程のことを言うんだよ」と。私もこの議論、しっかり進めて多数派を作るようにしていきたいと思います。

 

西田昌司議員。MMTに親和的で積極財政派の我々としては今後共注目ですね。

 

 

3つの信用創造の仕訳(しわけ)

先日、信用創造には3つあるという記事を書きました(ここ)。

今回はそれらの信用創造の仕訳(しわけ)について詳しくみていきたいと思います。

 

1.市中銀行信用創造マネーストック

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図表1 民間銀行の信用創造

まず市中銀行での信用創造です(図表1)。*1  私達家計や企業が銀行から借り入れをしたとすると、銀行はなにもないところから(1行目)、貸し出した金額に見合いの預金を我々の口座に振り込みます。 この時銀行はそのお金をどこからか借りてきたりすることなく、単にキーボードで金額を打ち込めば預金通貨(マネーストック、MS)が生まれます。これが民間銀行の信用創造の仕組みです。 こうして信用創造で生まれたお金は、銀行員のペン先から預金が生まれているので「万年筆マネー」ともよばれます。誰かが負債を負えば金融資産が生まれる、逆に誰かが負債を返済すれば同額の金融資産が消滅するという関係になっています。 ちなみに図の色分けは右側のMSが動く市場をここでは預金市場と名付けて緑色で表し、左側の中央銀行ネット内でマネタリーベースMBが動く金融市場は煉瓦色で表しています。(金融統計上は政府預金はマネタリーベースには含まれませんが、政府預金は銀行が中央銀行に預ける準備預金と同様中央銀行の負債という意味では同質のお金ですのでこの記事内では政府預金も含めてMBと呼ぶことにします) 

ここで、手に取れる紙幣という例外を除けば、緑色の市場のお金MSと煉瓦色の市場のお金MBは直接行き来できない別のお金ということには注意が必要です。従って我々は中央銀行ネット内にあるMBを直接受け取ることはできません。

 

2.中央銀行信用創造

中央銀行は銀行の銀行で政府の銀行でもあります。中央銀行信用創造の例として、政府が中央銀行からお金を借りる場合をみてみましょう(図表2)。

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図表2 中央銀行信用創造

これは政府は政府短期証券(FB)という債券を発行して、中央銀行がこれを引き受けた場合です。 この場合も図表1の民間銀行の信用創造と同じく、政府が自ら負債FBを負ったことで見合いの政府預金が政府口座に生まれる「万年筆マネー」が信用創造の仕組みとなっています。

 

3-1)財政出動に伴う信用創造中央銀行引受け方式)

信用創造の3つめが財政出動の場合です。財政出動に伴う信用創造政府短期証券FBを中央銀行が引き受ける場合と、民間銀行で消化される場合のふたつに分けられます。まずは中央銀行がFBを引き受ける場合(図表3)。

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図表3 財政出動(FB中央銀行引受けの場合)

政府がFBを発行して中央銀行がこれを引受けた場合、2行目までは先にみた中央銀行による信用創造そのものです。ただ、この段階で創られた政府預金は中央銀行に口座があるため中央銀行の金融ネットワークを越えて民間非金融部門へは出ていくことができません。

そこで政府が支出をする場合、民間へは例えば政府小切手などの形で支払いを行い、企業はこれを銀行に持ち込んで預金に変えてもらうという手続きを踏みます(3行目)。

政府小切手を持ち込まれた民間銀行は、中央銀行にその取り立てを依頼し、中央銀行は政府預金を振り替えて民間銀行の口座に準備預金を振り込みます(3行目)。

まとめると、政府支出に伴う貨幣の増加は中央銀行信用創造(2行目)で行われているが、生成したマネーは民間に流通できないため、政府小切手を受けた民間銀行がMSに変換するという二段階の手続きで行われているということです。*2

 

3-2)財政出動に伴う信用創造(市中消化方式)

現在の日本で財政出動する場合、FBは原則市中銀行で消化されることとなっています。*3 このFB市中消化の場合の仕訳は次のようになります(図表4)。

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図表4 財政出動(FB市中消化の場合)

政府短期証券FBを民間銀行に引受けてもらう場合、初期状態のままで民間銀行にマネーがなければその費用が支払えませんので、これに先行して民間銀行は中央銀行に借り入れをします。中央銀行は民間銀行口座に準備預金を振り込みます(2行目)。

市中銀行はこの資金で政府が発行するFBを購入します(3行目)。政府支出に伴い、政府が企業に政府小切手を支払い、民間銀行で預金(MS)とします。民間銀行は政府小切手を中央銀行に取り立ててもらい、準備預金を回収します。すると、民間銀行、中央銀行共に借入・貸出と準備預金が相殺されて仕訳からは消え、民間銀行バランスシートには借方:政府債務(ここではFB)/貸方:預金(MS)だけが残ります。

 

4.信用創造のまとめ

信用創造には3パターンがあります。

1)誰かが資金を積極的に借りて民間銀行でMSが生成される

2)民間銀行か政府が、彼らの銀行に当たる中央銀行から資金を借りてMBができる

 ただし中央銀行ネットに我々非金融部門はアクセスできないので…

3)政府がこれをMSに変換する財政出動を行なう

 

5.政府債務は家計貯蓄を超えるか?

4月5日付日経新聞の「大機小機」に政府債務は家計貯蓄を超えるか?という記事が載っていました。(ここ

上記の財政出動に伴う信用創造の仕訳をみていただければ明らかなように、企業・家計の預金に先行して政府債務が生まれています。政府の負債は誰かの資産、というわけです。これは理屈だけでなく、日銀資金循環統計からも確認できます(図表5)

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図表5 誰かの負債は誰かの資産

日銀資金循環統計によれば、2017年時点で家計純資産は1500兆円とされています。一方純債務を負っている政府・企業・海外の純債務の和もほぼ同額です(両者に少し差があるのは、金融機関など他の経済主体があるため)。

見方を変えれば、政府・企業・海外が負債を負っているからこそ家計に金融資産があるともいえます。 従って政府純債務が増えれば増えるほど家計純資産が増えるし、財政均衡や政府債務返済を目指して緊縮財政を行えば、単に家計資産が減るだけということになります。

「政府債務が家計純資産を追い越せば財政破綻する」などといった言説は信用創造の仕組みを知らないことから生じる間違いですので、その間違いに基づく緊縮財政によって日本を貧困化させることは愚かな自爆政策といえるでしょう。

*1:この簡易モデルでは日銀の信用創造による準備預金については考えません。

*2:このタイプの財政出動は現在の米国や、1998年以前の日本で行われていました

*3:その根拠はここ

MMT(現代貨幣理論)を知るために必要なたったふたつのこと

最近、急速にMMT(現代貨幣理論、あるいは現代金融理論)に注目が集まっています。

ただ内容をみると、肯定論がひとつに対して否定論がいつつ、といった具合でMMTの有用な主張が十分伝わっていないように思います。

 

そこで今回はMMTを知るために必要なことをお伝えしたいと思います。

それは現実の貨幣・信用創造の仕組みと、貨幣市場の枠組みの2点、これだけです。

なぜMMTを知るためにこの2点が必要かといえば、現在の経済学(主流派とよばれる)の教科書ではこのふたつが誤って書かれていて、このためにMMTの正しい理解にたどり着けない方が多々でてくるというわけです。(図表1)

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図表1 主流派経済学と現実

1.現実の貨幣・信用創造の仕組み

 主流派経済学の教科書では貨幣について次のように説明されています。*1  

 貨幣は、その物自体に価値がなくても貨幣としての機能を果たすと認識されれば貨幣となる。 1ドル紙幣はジョージ・ワシントンの肖像の描かれた紙切れであるが、それを持っていれば様々な商品やサービスと交換できると人々が認識する故に、貨幣となる。

 

 このような、貨幣自体に殆ど何の価値もなく、本来的な価値を持たない貨幣を「フィアット・マネー(不換紙幣・不換貨幣)」と言う。

 

 フィアット・マネーは本来的な価値を持つ貨幣(たとえば金貨や銀貨)の替わりとして流通し、価値の裏付けのないまま、その便利さ故にいつの間にやら定着したものである。

 

 経済学者達は本来的な価値をもつ貨幣を特に「商品貨幣」と呼んでいるが、貨幣として流通しだした商品はその商品の用途とは関係なく珍重される。

 

 このように、主流派経済学では本質的価値を持つお金と、それから派生する実際には価値がない不換紙幣とがあるという立場をとっています。

 

 ところが、現実世界の貨幣は基本的には銀行が信用創造で作り出すお金「信用貨幣」で回っていて、少量の「商品貨幣」のような硬貨も出回っているのですが、こちらは補助貨幣として少額取引用の例外となっています。*2

 

 このように貨幣観が、主流派経済学と現実世界では違うことが銀行の信用創造の理解にも影響していて、経済学の教科書では預け入れられた紙幣(本源的預金)を元に別の銀行にその大半を又貸ししていく「又貸しモデル」が記載されています。

この「又貸しモデル」での信用創造は、ウィキペディア日本語版にも記載されています。
ja.wikipedia.org

(また)ところが、現実世界の信用創造は又貸しモデルとは全く違っていて、銀行が貸付をするときに、銀行が借り手の銀行口座に同額の預金を同時に作り出す(銀行員のペン先から貨幣が生まれるため「万年筆マネー」ともいわれる)というものであることイングランド銀行が解説しています(ここ)。その概要部分の和訳はたむりんさんのブログで読むことができます(ここ)。 なお、英語版では正しい信用創造の仕組みが書かれています(ここ)。

 

2.貨幣市場の構造

主流派経済学では中央銀行信用創造するマネタリーベース(MB)と民間銀行が信用創造するマネーストック(MS)の市場は(明示的ではないものの)連続した単一の貨幣市場で取引されているという前提があります。

 

(またまた)ところが、現実の世界ではマネタリーベースが流通する金融市場は日銀ネット内にあり我々家計や企業、いわゆる「非金融部門」は日銀ネット外でマネーストックをやり取りしています。(図表2)

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図表2 現実の金融市場

図表2は一例として企業が銀行借入して見返りに自分の口座に預金を預け入れる信用創造がなされた例を描きました。 ここで重要なことは緑で示した預金市場と煉瓦色で示した中央銀行ネット内の金融市場は直接つながっていないということです。図のように、民間銀行がそのふたつの貨幣市場を取り持つ形になっています。

 

 

3.MMTの骨格とのつながり

1)ストック・フロー一貫(SFC)モデル

簡単にいえば、「誰かの資産は誰かの負債」ということです。従って、現在の政府債務は非政府部門(主に家計・企業)の金融資産とペアになっているということになります。 フローでいえば、例えば安倍政権の掲げるプライマリーバランス黒字化とは民間金融資産赤字化推進ということですね。

 

逆に、意図せず財政黒字となるケースがあり、これはバブル期の日本のように、民間がリスクを取り過ぎて過剰負債を抱えると発生します。バブルは必ず崩壊しますので、意図しない財政黒字は金融危機の予兆と考えられます。

 

 2)内生的貨幣供給論

内生的とは「自発的に」に近い言葉で、民間が使うお金、マネーストックは基本的には民間企業が借入をすることでその見合い資産として生まれているということです(図表2)。従って、例えば日銀の量的緩和で民間銀行にあった国債を日銀当座預金という貨幣に変えても日銀ネット内での銀行資産の持ち替えに過ぎず、企業や家計がいる預金市場には直接影響がないということも了解していただけると思います。

 

長くなりますので今回は割愛しますが、MMTの主張のひとつ、銀行預金より政府支出が先(spending first)を理解するためには、図表2で示した現実の金融市場での会計を順序正しく考えることが必要です。

 

教科書の間違いがMMTの理解を妨げているとの思いから今回の記事を書きましたが、いかがだったでしょうか。 

 

 

*1:マンキューマクロ経済学第6章「貨幣とは何か」

*2:本筋から外れるので敢えて書いていませんが、「信用創造」は民間銀行(マネーストック)だけでなされているわけではなく、中央銀行(マネタリーベース)、それに財政出動マネーストック)でも信用創造はなされています

信用創造(貨幣創造)には3種ある

最近、ツイッターランドでは、日本の政界に財政出動を唱える政治家を出していこうという薔薇マーク運動が注目されてきています。

私も薔薇マーク運動には注目しているのですが、その運動の中核的存在になりうる民主党の金子洋一前参議院から次のようなツイートがありました。

 

 金融緩和なしで財政出動すると最終的には増税を財源とせざるを得なくなる、というご意見のようですね。この因果関係についてツイッターランドでも憶測されていましたが、シェイブテイルはもしかすると信用創造(貨幣創造)に3種あることをご理解頂いていないのではないかと思いました。

 

結論から言いますと、信用創造(貨幣創造)には市中銀行が主体となるおなじみの信用創造と、日銀が主体となって日銀当座預金つまり銀行が日銀に預けている預金の創造と、もうひとつ、政府が自ら政府債務を負うことで市中銀行信用創造してもらう財政出動の3種類があるのです。(図1)

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図1 3つの信用創造

信用創造に3種類あることは、英語版Wikipediaのmoney creationの項目には記載されています。

en.wikipedia.org

 

薔薇マーク運動関係者によく理解されるべきなのは政府による財政出動には日銀は(受動的、間接的にしか)関与していないということです。

日銀マネーが財政出動の原資になっているというような理解をもし金子洋一前議員がされているようであれば、いくつかの論拠を中村てつじ元議員が良いまとめを作成されているのでここに引用しておきます。

 

d.hatena.ne.jp

 

 

リフレ派スペクトルと薔薇マーク運動、ポストケインジアン

最近リフレ派内の分裂が目立ってきました。

これについて偽トノイケ☆ダイスケ(久弥中)‏ @gannbattemasenn さんがうまく分類を考えてくれました

 リフレ派は金融政策重視では差がないものの、財政政策については積極財政から緊縮財政の順に 「薔薇マーク派」「自力リフレ派」「他力リフレ派」「緊縮リフレ派」があるという分類です。リフレ派内のスペクトルといったところですね。

 

これも参考にさせてもらって、私シェイブテイルが属する(市井)ポストケインジアンも含めた経済クラスタを分類してみました。

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リフレ派スペクトルとポストケインジアン

縦軸の財政政策は上が積極財政、下が緊縮財政と分かりやすいと思います。

横軸の貨幣生成の捉え方について、「外生的」あるいは「内生的」貨幣生成というのが聞き馴染みがない方も少なくないことでしょう。

 

これについては吉田暁氏*1の小論文に簡潔な対比が載っています。

西川元彦は「貨幣がまずあってそれが貸借されるのでなく,逆に貸借関係から貨幣が生まれてくる」と述べたが 、内生的貨幣供給論の本質を示す名言である。 また内生的貨幣供給論の中心的主唱者Moorは主流派の金融論との違いを「現在標準的なパラダイム(注:外生的貨幣供給論)は特に米国の経済学者にあっては ,中央銀行がマネーベースを決定しそれによってマネー総量を決めるとしている 」が、これらの 「現代金融理論は貨幣が商品(金銀) であった世界では妥当であった考え方を商品貨幣と信用貨幣の基本的な違いを認識することなしに継承している」と述べている

:内生的貨幣供給論と信用創造 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/peq/45/2/45_KJ00009509884/_pdf

 

 吉田暁氏は元全国銀行協会連合会勤務とあって、貨幣と貸借つまり負債との関係をよくご存知でした(いわば経済学の地動説)。

貨幣は中央銀行が創り出して、これが上限となる負債の受け皿になっているわけではなく、民間企業なり政府が負債を負うことで貨幣はゼロから生まれているということです。

 

一方、現代経済学で主流派を名乗る経済学派はいずれも商品貨幣説型の間違った貨幣観を引きずっています。(経済学の天動説)。 

その間違いの「しっぽ」が例えば教科書レベルでは、貨幣発生の物々交換モデル(実際には物々交換をやっていたという人類史上の証拠はなく、金属貨幣が生まれるはるか前から貸借関係の記録が残されている)、信用創造の又貸し説(実際は銀行が貸出することで、それと両建てで貨幣がゼロから生まれている)、財政出動によるクラウディングアウト、国債発行で財政出動→貨幣市場タイト化→金利上昇→民間経済抑制といった誤解(実際には国債発行して財政出動すると貨幣は純増するので金利抑制要因)あるいは、政府貯蓄という不思議な概念(政府は家計と違い、必要に応じて政府あるいは中央銀行信用創造して無から貨幣を増やせるため、貯蓄する意味がなく、T-Gという計算結果には意味がない)に出ていると思います。

 

 過去6年の3本の矢からまず積極財政を止め、ついで金融緩和を止めて、構造改革1本槍に変質したアベノミクスは、もはや財政破綻派と区別がつかなくなっています。*2

 

 そうした閉塞感からの反発として逆に薔薇マークリフレ派の方々が力を得ていることは喜ばしいことで大いに期待できます。

ただせっかく積極財政を唱えるのであれば、貨幣と負債の本質まで知っていただき、ポストケインジアン派に転向されれば施策面でもしっかりした提案がなされるものと期待しています。

*1:1933年東京生まれ。1955年東京大学経済学部卒業。1955~1985年全国銀行協会連合会勤務(調査部長、事務部長、事務局次長)。1985年~2014年武蔵大学経済学部教授、名誉教授) 決済システムと銀行・中央銀行』より

*2:他力リフレ派が最近緊縮アベノミクスの成果として総雇用者報酬増加など少子高齢化帰結を戦果として誇っているのは、緊縮しても経済は良くなると主張していることになり、増税派のイヌに成り果てていることは困ったことです。上の図でも緊縮派と大差がないですし。

「政府支出による景気対策に効果はない」は本当か

最近、立命館大学松尾匡先生をはじめとする拡張財政を求める経済左派的立場の方たちが「薔薇マーク」運動というものをはじめています。

rosemark.jp

シェイブテイルも拡張財政を強く求めていますので今後とも応援していきたいと思っています。

 

ただ、松尾匡先生のサイトをみにいくと「用語解説:ケインズの経済理論」として、なぜか拡張財政に否定的な見解が載っていました。

【現代のケインズ理論の唱える政策】
 ケインズ自身ともケインジアンとも異なり、現代のケインズ理論の結論によれば、政府支出を増やすことによる景気対策の効果はあまりないということになっている。なぜなら政府支出の増加で増えた人々の所得は、流動性のわなのもとではすべて貨幣のまま持たれてしまうので、消費需要の増加として広がっていくことはないからである。

ケインズの経済理論 ケインズ経済学 ケインズ理論

松尾先生のこの結論はニューケインジアンとしての結論であり実証的な話は書かれていませんでした。 では現実にはどうなのでしょう。

 

ここに好対照の二国があります。リーマンショック前後の日本と中国です。

リーマンショックは2008年9月にリーマン・ブラザーズが破綻した以後の経済変動を指す和製英語ですが、欧米では2008年国際金融危機という名前の方が一般的です。

実際、リーマン・ブラザーズが破綻するよりも前から、その引き金となったサブプライムローン問題が顕在化していました。

ところが、日本はといえば、当時の与党自民党与謝野馨経済財政担当大臣はリーマン・ブラザーズが破綻した直後の2008年9月でさえ次のように語りました。

リーマン破綻の影響、与謝野氏「ハチが刺した程度」

 自民党総裁選に立候補している5人の候補者は17日午前、島根県出雲市で街頭演説した。 与謝野馨経済財政担当相は米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻に関して 「日本にももちろん影響はあるが、ハチが刺した程度。これで日本の金融機関が痛むことは 絶対にない。沈着冷静な行動が求められる」と述べ、日本経済への影響は限定的との見方を示した。

日本経済新聞 nikkei.net(08/09/17 13:01) 
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080917AT3S1700N17092008.html

与謝野大臣が「ハチに刺された程度」という認識で経済対策を行わなかった当年の2008年は名目GDPはマイナス2%の落ち込みでした。翌2009年はリーマンショックの悪影響は誰の目にも明らかとなり、麻生太郎総理大臣の元、緊縮日本には珍しく対前年比6%もの歳出増の大盤振る舞いを実施したのでした。

一方、中国では、2008年11月には、リーマンショック対策として4兆元(当時のレート換算で約56兆円)規模の財政出動を決めて直ちに実施しました。4兆元といってもパッと見当がつきにくいですが、前年の財政規模を46%増しにしたということですから、現在の日本の財政規模は一般・特別会計合わせると200兆円なのでこれを300兆円とし、国民一人当たり100万円余計にバラまいたというイメージです。

 

下図に両国の歳出の伸びと名目GDPの伸びをプロットしてみます。(2005-2017年)

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歳出・名目GDP伸び率

リーマンショックの影響を限定的とみた日本は経済危機の最中何の対策もせず(青丸内)、2008年マイナス2%、歳出を6%伸ばした2009年でさえマイナス6%のマイナス経済成長となった。一方2008年に歳出規模を46%伸ばした中国は、リーマンショック最中にもかかわらず名目GDPを対前年比18%も伸ばした。翌2009年には早くも財政を緊縮側に転換、2010年以降は元の通常成長モード(赤い楕円)に回帰した。

 

日本では2009年に財政出動してもマイナス成長だったことから「財政出動しても効果は限定的」という認識が広まった可能性もあります。しかし上の図をみると日本の2009年の財政出動は単にtoo little too late だったのではないでしょうか。

2008年の中国同様、国民一人当たり100万円をバラ撒く規模の財政出動をしていたら、リーマンショック当時発生した大量の失業者もその後数年間の就職氷河期も実際とは違う状況となっていたのではないでしょうか。

 

 

 

石弘光氏死去という機会に思う

石弘光氏が亡くなりました。 財政再建に命を捧げた人生だったでしょう。

政府税制調査会長時代、増税を主張した時には「庶民の敵」と罵られ、ワイドショーに取り上げられ、自宅にはイヌの糞をばら撒かれたとか。
まったく頭が下がります。石弘光氏を批判した人々、ワイドショーを企画した人。一生懸命イヌの糞を集めて石氏の自宅にばらまいた当時の人たちには。

時代は移り、現代では石氏は日本のために命を捧げたようなマスコミの書きぶりです。 
増税を主張すると罵られるという当たり前の時代から増税を主張するのが当たり前という現代。わずか2-30年の間、この間一体何があったというのでしょう。

政府粗債務と家計純資産の比較!?
皆さん次の図1にイチコロで殺られてしまったようです。


図1 政府粗債務と家計純資産の比較
日銀資金循環統計から筆者作成
このグラフで意味があるのは政府粗債務から政府粗資産を引いた政府純債務と家計純資産との比較のみ。

「もうすぐ家計純資産をすべて費やしても政府粗債務を賄えなくなり、ハイパーインフレが皆さんを襲うようになります。」
「国民一人あたり900万円弱の借金が−−」
政治家、マスコミ、そして石氏ら財政学者は本当にクローン人間のように突然このように訴え始めました。
なぜクローン人間のようなのか。全員が同じ間違いを犯しているからですね。なぜ政府粗債務と家計純資産という比較しても意味がないものを比較し、なぜ国民一人あたり900万円弱の債権を持っているのを逆に債務と言い張る大間違いを根拠に、全員が一斉に比較して危機を煽るようになったのか。*1

まぁ、死んだ人に石を投げても、というより、石に石を投げても虚しいだけですね。

資産は負債と同時に生まれる


図2各主体別純資産・純債務
日銀資金循環統計から筆者作成

上の図2で、日本の家計純資産は現代では1500兆円に達していることが分かります。 面白いことに、この家計純資産は、(政府粗債務ではなくて)政府純債務、企業純債務、海外純債務をすべてカバーした金額と常にほぼ等しいことも分かります。 *2

簿記3級を習った人ならば、資産と負債が両建てで増え、両建てで消滅するというのはすんなり受け入れられる話ですね。*3

要するに家計純資産1500兆円の正体は、政府純債務・企業純債務・海外純債務がそれぞれ発生すると同時に同額発生した資産ということなんですね。

従って、石氏のように、政府粗債務が家計純資産に追いつきそうだという理由で消費増税にも大賛成という立場の人々(現代日本人の大多数というのが恐れ入ります)は政府債務がつくられたと同時に発生した家計資産を用いて、その資産を生んだ政府債務を自らの資産と対消滅させようとしている上、その方法論としては成長の最大のエンジン、内需(消費と投資)に懲罰税を課すことで内需を抑制し、真綿で首を絞めるに日本経済を絞め殺す(賃金抑制の結果、結婚も抑制され生まれてくるべき赤ちゃんが生まれられない)というおぞましい方法を選択しているということです。

石氏らの「活躍」により内需を抑制された日本では内需に向けた投資は意味をなさず、企業は生み出した資金を対外投資と純債務の返済に回し、内需が抑制されることで売上は将来に渡って頭打ちのためにかつてのように定期昇給や終身雇用は夢となり、非正規雇用の従業員の賃金も抑制するようになり、その結果。

法人税収・所得税収減を介して、政府の財政のバランス上、歳入と歳出の差「ワニの口を広げ」不足する税収文は国債で補わざるをえなくなった結果政府債務は、特に橋本政権下の増税(1998年)あたりから急増するようになりました。急増する政府債務をみて更に財政学者たちは我が意を得たりとばかりに消費税増税に積極的な姿勢となりました。 もはやマンガですね。

誰が描いたのかはもはや定かではありませんが、増税をしたい自分たちの私利私欲に資するとして描かれたたった一枚の図(図1)、政府粗債務と家計純資産とを比較するという欺瞞に満ちた図により政治家もマスコミも財政学者も踊らされ、今やそれが国民の常識と化してしまっています。

石氏が亡くなったいまこそ、家計純資産と比較するのならそれを生み出した相手である、企業純債務、海外純債務、そして政府純債務と比較してこれらがあるからこそ今の私達の資産が存在するのだという事実(図2)をしっかり頭に入れ、石氏のような日本を滅ぼすような大間違いは今後決してしないと政治家・マスコミ・財政学者は心に誓うべきいい機会なのではないでしょうか。

*1:一体どこの誰のクローンなんでしょうね?

*2:完全に一致しないのは、その他に金融機関などマイナーながら経済主体が存在するためです。

*3:企業の自己資本については返済を求められない負債と捉えればよいでしょう